プラズマベースイオン注入(PBII)法を用いた殺菌技術の食品への応用を行うには、安定的な殺菌が行える条件の特定を行う必要がある。本年度は、Geobacillus stearothermophilusを対象として、殺菌効果の向上をめざし、イオンシースが長時間保持できる条件の特定を行った。その結果、酸素ガスを用いた場合、印可電圧-6kV、RF電源240VA、周波数1kHz、ディレイ時間50μs、パルス幅20μsの時、処理時間40分までイオンシースが安定に保持できていることが確認出来た。また、その条件下では、ステージの露出面積(プラズマ発生面積)が106cm2以上であれば6Dの殺菌効果が得られることが分かった。次に、PBII法を用いた場合の殺菌メカニズム解明の為、G. StearothermophilusとStaphylococcus aureusを指標菌として殺菌を行った際の、細胞構造の変化を電子顕微鏡を用いて撮影を行った。その結果、酸素ガスを用いてPBII処理を行った場合、反応性エッチング効果により、細胞に穴が空いて殺菌効果が得られている事が確認出来た。一方、窒素ガスを用いた場合、非反応性エッチングにより、細胞に穴が空く様な現象は見られず、均一に表面が削られていくような現象が確認された。窒素ガスよりも酸素ガスの方が、高い殺菌効果が得られた。次に、実際の食品素材等(ビーフジャーキー、香辛料、ふすま、米ぬか、おが屑)を用いてPBII処理の効果を確認した。ビーフジャーキーをモデルとした実験では、3Dの殺菌効果を得ることが出来た。しかし、香辛料等では、1D程度の殺菌効果しか得ることが出来なかった。生残微生物の同定の結果、Bacillus licheniformisなどの耐熱性芽胞菌が多く存在しており、香辛料の殺菌には、更なる最適条件の検討を行う必要がある事が分かった。
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