研究課題/領域番号 |
16K07759
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
坂本 宏司 広島国際大学, 医療栄養学部, 教授 (80613017)
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研究分担者 |
的場 輝佳 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 客員教授 (10027196)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酵素 / 介護食 / 形状保持 / 凍結含浸 / 嚥下 / 咀嚼 / 在宅介護 / 酵素含浸 |
研究実績の概要 |
氷結晶誘導含浸では,酵素の付着方法として酵素液と酵素粉末を利用する方法があるが,拡散効果は食材表面における酵素の濃度勾配が高いほど高くなるため,酵素粉末を直接塗布する方が効果的であった。しかし,食材の軟化の均一性と酵素使用コストを比較した場合,酵素液を塗布または浸漬した方が有用であることがわかった。酵素粉末を直接塗布する場合,食材内部または表面の水分量が極めて重要で,酵素の使用量に影響を及ぼすことがわかった。 食材に酵素粉末を塗布する工程において,微量の酵素を均一に塗布するためには酵素に賦活剤を混合した酵素粉末が必要となる。賦活剤添加による酵素拡散及び軟化食材の離水に及ぼす影響を検討した結果,低分子糖類が酵素拡散に促進的に働き,高分子であるβ型でんぷんは離水を防止する効果が認められた。また,有機酸塩類の添加はペクチンに結合するCaのキレート効果とpH調整効果が認められ,食材の軟化を促進することが明らかとなった。 凍結含浸と氷結晶誘導含浸で得られた食材の物性をテクスチャー解析した結果,両者に差異は認められず,氷結晶誘導含浸の有用性が認められた。食材の長期保存を目的にレトルト介護食の連続処理に関する実験を行った。氷結晶誘導含浸は減圧処理を必要としないため,レトルトフィルム内で酵素拡散による含浸処理と酵素反応,酵素失活処理を連続的に行うことが可能である。そこで,予め酵素塗布し凍結した状態の食材をレトルトフィルムに密封し,フィルム内での酵素反応・失活・レトルト殺菌による形状保持型介護食を作製した結果,レトルト釜内部の温度上昇速度と適した増粘剤を選択することで形状保持した状態の介護食を作製できることがわかった。なお,本法では食材の軟化度の均一性に問題は残った。今後は,効率的かつ低コスト(酵素添加量の低減効果、酵素反応時間の短縮効果)で均一軟化する条件を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 氷結晶誘導含浸に及ぼす浸透圧制御物質等の影響の解明:酵素に添加する賦活剤の効果について,酵素粉末の場合は酵素の希釈,浸透拡散効果の促進及びキレート作用が見出され,酵素液として利用しても同様の効果が得られることを見出した。さらに,ドリップ生成に伴う離水防止効果についても明らかにした。課題として,食材の水分量と酵素粉末の添加量,または酵素液の調製方法(酵素濃度,賦活剤の選択,粘度など)についてさらなる検討が必要である。 2 酵素の表面塗布方法の検討:酵素の塗布方法について,拡散効果を促進するために酵素粉末の表面塗布が有効と考えられたが,食材の軟化を均一に行うためには,微量の水分添加が効果的であることを見出した。さらに,添加時期についても食材の凍結前,凍結後いずれの添加時期においても同様の軟化効果が得られることを明らかにした。その際,添加する水分量の添加方法,添加量についての課題は残った。また,酵素の添加量は製造コストに反映されるので,酵素の添加量と添加方法について最適化を図った。 3 凍結含浸食材と氷結晶含浸食材のテクスチャー解析による比較:凍結含浸食材と氷結晶含浸食材の比較では,食材の軟化の均一化については前者の方が優れていたが,処理方法をプロトコル化することでほぼ同様の形状保持型介護食の製造が可能であることを見出した。その際,事前加熱温度または事前加熱方法(熱風,スチーム,煮沸)の選択が重要で,食材ごとに適正化を図る必要があった。 4 形状保持軟化介護食の作製:氷結晶誘導含浸による酵素含浸を利用することで極めて簡易的な工程で連続的な酵素含浸,酵素反応,殺菌工程を行えることがわかった。ただし,タケノコなどの冷凍変性が生じる食材の場合,凍結含浸とは異なり,凍結変性の影響を受け,食材の物性は変化することがわかった。今後は,この工程の最適化を図り,汎用的な方法を見出す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において,氷結晶誘導含浸には,酵素添加時期に違いにより,2つの基本工程が有効であることが判明した。それぞれ,製造または調理する環境,利用目的により,使いやすい方を選択することができる。その際,病院や介護施設など厨房,在宅での介護食調理を考慮すると,原料食材から介護食を調理するよりも,調理済み食品をベースとした氷結晶誘導含浸による形状保持軟化の方が有用である。最終年度は,在宅での簡易的な形状保持軟化介護食を調理する手法について検討し,技術の確立を図る。また,在宅支援の関係から,調理済みの市販介護食の製造技術として,氷結晶誘導含浸法を利用した常温流通可能なレトルト食品の製造技術の基礎研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は最終年度であり,氷結晶誘導含浸法の有効性と活用について研究を行う。そのため,綿密な研究計画について,共同研究者間ですり合わせを行うための旅費に充当する。
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