研究実績の概要 |
ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシより、ミズナラ類にナラ菌が運ばれ、樹木が枯れる現象である。近年、減少傾向にあるが、その詳細なメカニズムは不明な点が多い。 昨年度に引き続き、ナラ菌の植物毒性物質や代謝産物に含まれる成分のうち、植物に対して毒性の示す物質やそれ以外の物質についても、明らかにすることを目的とした。ナラ菌を数種の培養培地で培養した。その後、良好な物質生産性を示した培地を選択した (麦芽エキス培地:麦芽エキス:4 %, グルコース:4 %,ペプトン:1.0 %, 水, 培養条件:21 日間、25 度で振盪 培養、玄米固体培地:組成:玄米、水, 培養条件:30 日間、25 度で静置培養)。玄米固体培地を用いた培地において、顕著な物質の生産性が見られた。続 いて、各種溶媒分画、カラムクロマトグラフィーにおいて、生産物質を精製した。最終的な精製は、HPLC 分取などを組み合わせて精製し、数種の化合物を単離した。化合物1については、NMRスペクトルデータを用いた化学構造解析を実施した。化合物 1は、昨年度に同定したシタロンに見られた特徴的な UV 吸収を示さず、また、NMRスペクトルからも、このことは支持され、さらに、カルボニルに帰属される吸収を示さなかった。これらのことから、全く異なる化学構造であることが予想された。引き続き、詳細にNMRスペクトルデータを解析した。1H NMR スペクトルにおいては、多くのメチレンシグナルがオーバーラップしていた。13C NMRスぺクトルデータからは、約 48 本のシグナルが観測され、得られた部分構造をHMBC 実験により繋ぎあわせて、平面構造を明らかにした。その結果、化合物 1は セラミド類のセレブロシドの類縁物質であると予想された。また、ナラ樹木より分離した糸状菌とナラ菌を対峙培養した時、ナラ菌は黄色物質の生産を引き起こした。黄色物質生産機構は明らかではないが、ナラ菌の代謝産物を変化させる作用を有していることがわかった。
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