研究課題/領域番号 |
16K07768
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
逢沢 峰昭 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (70436294)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 核DNA / ミトコンドリアDNA / SSR / COI / 分布拡大 |
研究実績の概要 |
ニホンヤマビルの遺伝子の地理的な違いを明らかにし、近年の分布拡大がどこからどのように生じたのかを明らかにすることを目的として、初年度は、(1)ミトコンドリアDNA(mtDNA)を用いて古くから分布する地域集団(土着集団)の遺伝子の地理的な違いを明らかにすること、(2)次世代シーケンサーを用いて遺伝解析用の核DNAの単純反復配列(SSR)マーカーを作成すること、(3)作成した核SSRマーカー用いて栃木県の分布拡大がどこの集団を核に生じたのかモデルケースとして明らかにすることの3点の課題に取り組んだ。東北地方の6集団、関東地方の6集団、近畿地方の3集団、九州地方の4集団の計19集団で試料採集を行った。また、栃木県においては、土着集団(1集団)に加えて近年(2008年以降)吸血被害が問題化している拡大集団(5集団)の計6集団で採集を行った。これらの試料を用いてmtDNAのCOI遺伝子の塩基配列を決定した結果、43の遺伝子型が検出され、全国のニホンヤマビル集団は南北の2つの系統群に分かれ、両系統群間には強い遺伝的分化がみられることが明らかとなった。したがって、この遺伝情報を基に分布拡大の核となった集団の特定が可能と考えられた。また、次世代シーケンサーを用いて取得したゲノム情報を基にして、13遺伝子座の核DNAのSSRマーカーを開発した。さらに、12の核SSRマーカーを用いて、栃木県の土着集団と拡大集団のニホンヤマビルの遺伝子型を決定した。その結果、栃木県南北の2地域群に分かれ、両地域群間ではニホンヤマビルの遺伝的交流を伴う移動は起きていないと推察された。さらに、この拡大集団のmtDNAの遺伝的多様性は土着集団より低かった。このような遺伝構造は、北部の土着集団を核に2000年以降分布拡大したこと、それに伴う創始者効果の結果、拡大集団の遺伝的多様性が低下することで生じたと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
修士課程所属の大学院生の真摯な取り組みにより、次世代シーケンサーを用いた核SSRマーカー開発が予定以上にスムーズにできたこと、および計画的なサンプリングを行ったため、初年度でほぼ全国を網羅するように試料採取ができたためである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に取り組む課題は以下の3点である。 (1)全国集団に対するミトコンドリアDNAと核DNAのSSRマーカーを用いた解析を完了する。 (2)新潟、長野、静岡、愛知、奈良、和歌山でサンプリングを行い、すべてサンプリングを本年度で完了する。 (3)吸血動物の同定と量的評価のために、環境DNA解析などで用いる方法を検討し、予備的解析を行う。 来年度の課題は、全国集団を対象とした吸血動物の同定と量的評価を完了し、哺乳動物と分布拡大の関係を明らかにすること、および国際誌への論文投稿である。
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