樹木の養分の大部分は根に共生する外生菌根菌(以下、菌根菌)によって吸収されているため、樹木を保全するためには、樹木だけでなく土壌中の菌根菌を含めた対策をとることが必要である。本研究では、樹木の保全と保護に菌根菌を活用した新たな手法を開発することを念頭に、北海道アポイ岳にのみ分布する日本固有種で、絶滅危惧種に指定されているアポイカンバを1つのモデルケースとして基礎的な研究として、以下の2つの実験を行った。 二つの実験ともに調査は北海道様似町アポイ岳のアポイカンバ林分の50地点で5×5×10cmの土壌ブロックを採取した。 「アポイカンバ残存林内に生息する菌根菌群集の特徴」では、採取した土壌サンプルから樹木の根を取り出し、実体顕微鏡下で菌根の形態分類を行った。各サンプルで検出された菌根の形態タイプからDNAを抽出し、菌根菌のrDNAのITS領域の塩基配列を明らかにすることで、菌根菌種の同定を行った。その結果、アポイカンバ林分では、Cenococcum geophilum、ベニタケ科、イボタケ科、フウセンタケ科の菌根菌が高頻度で検出された。 「アポイカンバ実生に共生する菌根菌とその機能」では、バイオアッセイとして、チューブにサンプリングした土壌を入れ、アポイカンバまたはハイマツの種子を植えて6ヶ月育苗した。育苗1ヶ月後にアポイカンバの苗がすべて枯死してしまったため、急遽別の手法のバイオアッセイをアポイカンバとヒメコマツを用いて行なった。育苗後の苗の菌根の形態類別を行い上記の実験と同様に菌根菌の同定を行った。その結果、アポイカンバで優占していた菌種は、ピロネマ科の1種だった。一方、ハイマツやヒメコマツでは Cenococcum geophilum (ハイマツのみで検出)やショウロ属菌が優占した。また、アポイ岳で採取した子実体から菌根菌を分離培養し、アポイカンバの苗の根に接種した。
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