撹乱による森林の構造の変化に伴うCO2収支の変化、特に下層植生が果たす役割を明らかにするため、2004年の台風による大規模撹乱が起きた札幌市の落葉広葉樹林内で、上・下層のフラックス観測および毎木調査を行った。2016~2018年に行った下層におけるフラックス観測では、森林構造の変化により夜間のフラックス観測では過小評価が示唆されたため、日中のフラックスデータのみを解析対象とした。 台風撹乱から数年後に測定した2007年および2008年は全体の総一次生産量GPPに対する林床ササの割合は30~40%程度であった。樹木の葉量が最大となる6~7月においても林床の割合は30%以上あった。撹乱後10年以上経過した2017年夏期は約25%と若干寄与率は低下した。光利用効率LUE(=GPP/光合成有効放射量)は気温の上昇とともに高くなるが、2007,2008年および台風撹乱から10年以上経過した2017年もその関係性に大きな変化はなかった。日中の生態系呼吸量REと気温の関係性も2007年~2008年と、2017年では大きな変化は見られず、森林全体に対する寄与率は高いまま維持されていた。 森林で大規模な撹乱があった場合でも下層植生が十分にある場合、樹木の葉量減少に伴うGPPの減少を補うポテンシャルがある。利用できる光が十分であれば下層植生のGPPは、森林全体のGPPにも無視できない割合で寄与し、樹木の葉量が回復するとともに下層植生の寄与は減少することが明らかになった。一方、REは分解される有機物の量に依存する。一時的に大量の粗大有機物の供給後も、継続的に粗大有機物が供給されるような今回対象としたような森林では高いREが維持され、結果的に森林のCO2収支は長期間負(放出)となる場合もあることが示された。
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