研究課題/領域番号 |
16K07791
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
宮澤 真一 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10578438)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アンモニア / 針葉樹 / 光呼吸 / 被子植物 / グルタミン合成酵素 / 葉緑体型グルタミン合成酵素 / 光合成 |
研究実績の概要 |
光呼吸は樹木の光合成炭酸同化を制限する代謝のひとつであり、代謝過程にアンモニアの発生と同化をともなう。針葉樹は被子植物とは異なる光呼吸アンモニア同化メカニズムを有している可能性が高く、阻害剤実験や形質転換スギの作製、および解析によって、本メカニズムを解明する。今年度は二次元電気泳動によって、スギやイチョウなど裸子植物のグルタミン合成酵素(GS)のアミノ酸構造を解析し、被子植物のGSのアミノ酸構造と比較することが目的である(1)。また、GS阻害剤を用いた解析により、スギのアンモニア同化酵素の種別の判定を行う(2)。
(1)【GSのアミノ酸構造の解析】質量分析装置を用いたGSのアミノ酸構造の分析を目的に二次元電気泳動を実施したが、質量分析に耐えるだけの純度の高いゲル片を得ることはできなかった。そこで、イチョウや原始的被子植物であるアンボレラ、およびシダやコケのゲノム情報をもとに、広範囲の植物系統のGS分子系統樹を解析した。その結果、イチョウやアンボレラの両種については、被子植物と針葉樹に特徴的とされるGS分子種が混在していることが明らかとなった。また、シダにおいては、これまで報告されていない新たなGS分子種を見出した。 (2)【GS阻害剤を用いた解析】インゲンは光呼吸で発生したアンモニアの同化にGSを利用していることが知られる。GSが阻害されれば葉のアンモニアは余剰となり、葉からアンモニアが多量に放出されることが予想される。そこで、GSの阻害剤であるメチルスルホキシミンを、インゲンの初生葉の葉柄の切り口から吸わせ、葉のアンモニア放出速度を化学発光式アンモニア分析計によって測定した。しかし、予想と異なり、阻害剤を与えてもインゲンの葉からアンモニア放出速度が上昇する結果は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GS阻害剤を用いた予備実験については、予想とは異なる結果が得られた。阻害剤の処理時間が短すぎるなどの原因が考えられる。実験系をあらためて構築し直し、再度、解析を行う予定である。 また、シダ、コケ、イチョウ、アンボレラなどのゲノム配列をもとに、当初予定していなかった解析を実施し、アンモニア代謝の進化に関する新たな知見を見出した。さらに、平成28年度に得られた成果については英語で学術論文としてまとめ、国際誌に投稿中である。 予想通りには行かなった結果はあったものの、別の方法を用いて新たな解析を加え、また、早めに成果を論文としてまとめることができたため、このような自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)【GS阻害剤を用いた解析】阻害剤の処理時間が短すぎたため、予想に反した結果が得られたと思われる。そこで、次年度、インゲンを用いて、阻害剤の処理時間を長くし、あらためて解析を実施する。インゲンを用いた本実験系を確立した後、スギなどの針葉樹についてもこれを適用する。これにより、針葉樹のアンモニア同化酵素の種別を判定する。 (2)【裸子植物を用いた光呼吸由来のアンモニア同化効率の評価】平成28年度の成果から、スギやマツなどの針葉樹の葉は、ポプラやインゲンなどの被子植物の葉に比べて光呼吸で発生したアンモニアの同化効率が顕著に低いことを明らかにした。これは、針葉樹などの裸子植物は、地球の大気CO2濃度が現在よりも高い環境で進化してきたことと関連するのかも知れない。この仮説を検証するため、イチョウなど針葉樹以外の裸子植物についても、アンモニア同化効率を評価する。 (3)【GSの発現を調節した遺伝子組換えスギの作製】GS遺伝子の発現量を調節した遺伝子組化スギの作製を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
質量分析を行うため経費として充てる予定であったが、質量分析に耐えるほどの試料を得ることができなかった。次年度は予定していた遺伝子組換えスギの作製を行うため、当該予算は組換えスギ作製のための研究補助員の雇用経費に充てる予定である。
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