研究課題/領域番号 |
16K07793
|
研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
倉本 惠生 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員等 (00353673)
|
研究分担者 |
大矢 信次郎 長野県林業総合センター, 育林部, 主任研究員 (50584885)
佐藤 弘和 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 森林研究本部林業試験場, 研究主幹 (70522217)
津山 幾太郎 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80725648)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 車両系林業機械 / 林内走行 / 森林作業道 / 林床植生 / 土壌攪乱 |
研究実績の概要 |
伐採再造林の低コスト化のために期待されている車両機械の活用は、機体による林地へのインパクトの増加を示唆する。応募者は北海道で車両機械の走行が土壌や植生に与える影響の解析を行い、土壌については走行による土壌圧密からの回復の可能性を、植生については外来雑草を含む非森林性の草本の増加を明らかにしてきた。本課題ではこれらの走行インパクトの持続性と一般性(土質や植生相の異なる地域にも成り立つのか)に焦点をあて、車両機械の走行による土壌圧密からの回復過程の詳細を解明し、進入した非森林性植物種が増加を続けるかを検証する。 北海道では道総研を中心に地形・作業機体構成が同じで作設年代の異なる作業道での土壌硬度と林床植生調査を行い、開設後5年間の土壌・植生の変化を間接的に推定した。土壌締め固めからの回復や植生発達は作設後2年目から始まる事が示唆された。昨年度の新設作業道は機械の路外転落で攪乱されたため、本年度は新設作業道の作設前後の調査を新たに行った。長野県では、前年度にクローラ重機の折り返し走行試験地を設定し、100m程度の走行区間内に走行回数の異なる区間を設けた。本試験地では、2つの土壌硬度測定器を併用し走行前後の変化を捉え、クローラの踏圧部分の植生を伐採後無地拵え・非伐採区と比較しつつ調査した。本年度はこの試験地で土壌調査・植生調査を実施し、走行1年後の変化を把握した。無地拵えや非伐採区に比べ、走行区では植生の発達が抑制されていることが示唆された。この試験地と同じ土壌(火山灰土壌)で、過去にホイール式機械の走行試験を行った区間を復元し、過去の調査地点で土壌硬度と植生調査を行った。同種の研究はこれまで北海道の堆積質土壌で行われてきたが、これらの調査と今後の分析により火山灰土壌での結果が得られることになる。あわせて機械による破砕地拵え地の植生調査、UAVによる調査効率化の検討を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、先行研究で明らかにした「車両機の林内走行による土壌の締固めが5年程度で元の状態に戻る」ことが、具体的にどのような経年変化をたどって起こるのか、異なる土質や作業機体のもとでも共通して起きるのかを明らかにすることを大きな目的としている。車両機による効率的で安全な伐出・再造林作業は、林業産業の振興、低コストで確実な更新作業の要であるので、車両機が林地に及ぼす影響を理解し最小化するうえでこれらの解明は不可欠なものである。まず、具体的にどのような経年変化で締固めが回復するかについては、他の条件が同一で作設年代の異なる作業道の土壌・植生を時系列化することで間接的な推定を行った。また新設作業道の経年変化の追跡もあわせて実施し、初年度はアクシデントにより調査地が攪乱されたものの、本年度にすぐさま新規調査を行って補った。一方で、先行結果は林内走行路であり作業道とは条件が異なる。しかし本課題では、作業道の知見を新たに付加するとともに、長野県や北海道での林内走行調査地の掘り起しを行っており、研究期間中に林内走行地でも十分な知見が得られると考えている。異なる土質や作業機体条件ではどうなるかについては、長野県の火山灰土壌地で折り返し走行試験地(クローラ式機体)を新たに設定し、さらにホイール式機体の折り返し走行試験地を復元した。先行結果は、堆積質土壌においてクローラ式車両機の走行によるものであったが、これらの実施によって、日本の代表的土壌である火山灰土壌と堆積質土壌の比較、同一土壌で異なる機種による比較が行えることとなった。以上の結果については一部を学会等で発表しながらとりまとめており、さらに現在2本の原著論文を投稿している状況であり、おおむね順調に進捗しているものと判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
車両機の走行による土壌の締め固めが、堆積物土壌・火山灰土壌でも起こることや、その後の回復過程において走行1年後ではほとんど変化せず2年目以降から回復することが示唆された。つまり、次年度以降の調査が土壌締固めからの顕著な回復をとらえることが予想されるため、これを念頭において調査を行う。従来、土壌締固めを把握するための土壌硬度調査は数種類の異なる測器を用いて行われており、これが比較研究を困難にしていた。この問題を解決するため、統一的な土壌締固め指数の考案を行い、一方では新規設定試験においては代表的な2種の測器を併用することで両者の差異を明らかにしようとしている。締固め指数は学術誌に投稿し専門家の意見を仰いでおり、この妥当性が受け入れられれば統一指数を用いた比較を行っていく。現場では保有するいずれかの測器によって測定をすすめることが多いため、測器間の違いも実証していく。 これまでの2年間は土壌の回復過程に主に焦点を当てており、植生の変化は部分的に分析をしつつ、データの蓄積や試験地の整備に注力してきた。土壌について、ある程度理解が進んだため、次年度以降は植生の変化の解明にも注力する。実際の森林管理・施業の現場において、土壌の締固めの回復と並行して林床植生の変化がどのように起きるかは、車両機のインパクト、路網の維持管理コスト、林地保全機能を判断するうえで重要な知見となる。これを踏まえ、植生の変化の分析について、土壌との関連性も踏まえて分析する。また、先行結果では林内走行部分に外来種を含む非森林性の草本種が増加することが示唆されており、先行研究の試験地の追跡調査を実施することによって、これが長期的に続くのか一時的な現象かを究明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではホイール式林業機械の日本の森林土壌・林床植生に及ぼす影響を、日本の代表的な土壌(堆積岩・火山灰)・林相(トドマツ人工林・スギ人工林)で評価する計画である。長野県のスギ林伐採跡地(火山灰土壌)でクローラ式林業機械の折り返し走行試験を設定でき、北海道の堆積岩土壌での先行試験と比較できるようになった。さらに長野県でクローラ式林業機械走行試験地を復元し、土壌と植生の調査を実施した。これらをうけ、長野県試験地と同じ機体構成で作業を行っている北海道オホーツク地域での実証試験を追加することにし、この準備のための旅費等を次年度分に繰り越した。また、植生調査地の調査年が同期しがちになるために調査年を調整し、次年度に持ち越した分の旅費分を繰り越した。さらに、走行地上の樹木更新調査に向けて種子供給量のデータを収集する必要が生じ、そのための広葉樹雄花芽調査や情報収集調査を予定したが、冬の気候が厳しく調査に適さなかったため次年度春(4~5月)に持ち越すこととし、その分を繰り越した。
|