研究課題
気候変動による長期間の気温上昇や乾燥が、東南アジア熱帯雨林地域の林冠構成樹種の稚樹に与える影響を評価するため、都市化によるヒートアイランド現象を強く受け、高温・乾燥化が進んでいるシンガポールの熱帯雨林で稚樹の応答を調べた。シンガポール市内で150年以上に渡り、小面積で孤立している低地熱帯雨林であるブキティマ自然保護区に3カ所の調査区を設定した。調査区内で主要林冠構成樹種であるフタバガキ科樹木の稚樹の生存率、成長速度、定着環境(光強度、土壌水分含有量、土性)に加え、種間雑種の割合を調べた。谷部に出現するShorea leprosulaの稚樹は、保水能力の高い粘土質土壌で枯死率が低く抑えられる傾向が見られたことから、乾燥ストレスに弱いと考えられた。この種は調査対象とした森林全域で個体数が激減し、現在80個体程度しか胸高直径が30cmを超える成木がなく、干ばつ頻度が増えるとこの森林から消滅する危険性があると考えられた。一方、乾燥した尾根部に多いShorea curtisiiの個体数は最も多く、乾燥ストレスに強いと考えられた。また大面積で保全されている熱帯雨林では、フタバガキ科樹木の種間雑種は非常にまれであるが、この森林では、稚樹の雑種の割合が17~40%と高かった。雑種の稚樹の生存率や成長速度は両親種(S. leprosulaとS. curtisii)とほとんど同じで、定着が進むと考えられた。また雑種は両親種より明るく乾燥した環境に定着しており、気候変動やヒートアイランド現象による森林内の乾燥化が進むと、雑種に適した環境が増え、定着がさらに進むことが予測された。これらの情報は、熱帯雨林を適切に保全するための重要な基礎情報としての活用が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
ヒートアイランドの影響を受けている低地熱帯雨林の林冠樹種の定着環境などを明らかにし、論文の出版ができたため。また山地林樹種については、カウンターパートを通じて調査許可、調査地の設定、苗木の購入等の移植実験を開始できる状態になったため。
今後、低地林樹種の乾燥実験の結果を解析し論文の作成を進める。山地林樹種の低地への移植実験を行い高温や乾燥環境への応答の解析を進める。
マレーシアのカウンターパートの日程の都合がつかず現地調査を行えなかったため。
昨年度できなかった現地調査の費用として使用する予定である。
成果の一部をプレスリリースした。
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海外の森林と林業
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https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2017/20170322/index.html