研究課題/領域番号 |
16K07800
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研究機関 | 山梨県富士山科学研究所 |
研究代表者 |
大脇 淳 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 研究員 (40539516)
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研究分担者 |
北原 正彦 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 研究員 (70342962)
岸本 年郎 ふじのくに地球環境史ミュージアム, 学芸課, 准教授 (70728229)
中野 隆志 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 研究員 (90342964)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 林業 / 生物多様性 / 遷移 / 植林地 / 草原 / 伐採地 / 複数分類群 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、放棄草原一ヶ所を調査地として追加し、そこで植物とチョウの調査を実施した。また、シラビソ植林地との比較対象として、標高がより高いシラビソ天然林でピットフォールトラップとマレーゼトラップの調査を実施した。平成28年度に採集したヒメバチは研究協力者に同定を依頼し、同定が終了した。 平成29年度は、これまでに収集したデータの解析を行い、以下の結果を得た:(1)天然林、植林地ともに暗くなると植物やチョウの多様性が減少するが、開けた林道を作ることにより、植林地でも植物やチョウの種数、個体数を高めることができる、(2)草原性生物の生息地としての伐採地の機能を評価するために、半自然草原と伐採地で植物とチョウの多様性を比較したところ、種数は両者で差はないが、絶滅危惧種の種数は草原の方が多かった。しかし、一部の絶滅危惧種にとって伐採地も重要な生息地になり、草原でも草丈が高すぎると植物、チョウの多様性ともに減少することが分かった、(3)植林地全体が保持する地表性節足動物の多様性を評価するために、植林地の遷移系列と天然の遷移系列を比較したところ、天然林の節足動物の多くは30年以上経った植林地にも生息するが、100年以上の老齢天然林には特異的な種が生息し、伐採地は草原の節足動物相の生息地としては不十分であった、(4)火入草原と放棄草原では植物、チョウの種構成ともに大きく異なり、植物の絶滅危惧種は主に火入草原に分布するが、チョウの絶滅危惧種は放棄草原にのみ出現し、火入草原には生息しない種も複数見られた。 以上の結果の(1)~(3)は既に学会で発表し、(1)は論文としても出版済みである。(4)は平成30年度に学会で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ収集、データ解析、種の同定、学会発表や誌上発表など、いずれもほぼ当初の計画通り進んでいるため、概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
植林地が保持する生物多様性を評価する、という本研究の目的を考えると、これまでの研究から以下の点が課題として浮かび上がった。一つは、伐採地は一部の絶滅危惧の植物やチョウにとって重要な生息環境となることが判明したが、それらの生息地として伐採後何年くらい機能するのか、伐採地の過去の土地利用や草原からの距離は、伐採地の生息地としての質に影響を及ぼすのか、という点である。もう一つは、この地域の植林地には、主にアカマツ、カラマツ、シラビソという3種の単植植林地が多いが、植えられた樹種の違いは生物相にどのような影響を与えるか、という点である。 以上の二点はいずれも興味深いが、当初の研究計画と絶滅危惧種の生息状況から、本年度は伐採地に焦点を当て、伐採地の年齢、過去の土地利用、草原からの距離が伐採地の植物やチョウの多様性や群集構造にどのような影響を与えているか調査する。 また、これまでと同様、既に収集したデータについては、できる限り早く論文として出版する努力をする。 本年度は最終年度に当たり、成果も出てきたことから、この成果を地域に普及させるために、シンポジウムの開催を企画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に当初の予定以上の費用を要したが、一方で同定や英文校閲にかかる人件費・謝金を予想以上に抑えることができたため、全体として若干の未使用金が生じた。 しかし、平成30年度は、英文校閲や論文のオープンアクセス化で多くの費用が必要と予想され、計画通り予算を執行する予定である。
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