篳篥蘆舌用葦材の良否を左右する構造や物性を明らかにするために、蘆舌用に採取された良材および不良材の物性測定を行った。また、蘆舌用の葦材が採取される淀川および宇治川流域において葦の生育状況調査を行うとともに、蘆舌用の葦を刈り取る熟練した職人に対して、選別方法に関する聞き取り調査を行った。 蘆舌に適する葦とそれ以外の葦の密度と肉厚を比較したところ、生育場所の水環境によって葦の物性が大きく変化することが明らかとなった。導水路中で採取した葦を除くと、採取地の違いによる密度差よりも、節間内の部位の違いによる密度差の方が大きかった。節間内の部位による密度の違いは表皮柔細胞層の厚さによるものであった。 肉厚や外径、密度に関して、蘆舌に適する葦と蘆舌に適さない葦の間には明確な違いが認められなかった。一方、良材は他の葦よりも明らかに高い横圧縮強度を示した。葦の稈から蘆舌を作る際には、稈の一端をつぶさなければならない。そのため、薄くつぶしやすい節間内上部が使われ、かつ、横圧縮に対して壊れにくい葦材が選ばれるものと推察された。 宮内庁楽部において、蘆舌のひしぎ工程(葦を炭火にかざし、圧縮して蘆舌にする工程)における温度条件等を調査した。ひしぎの過程で葦の温度は140℃程度に達しており、含水率が繊維飽和点以下であることが確かめられた。また、加熱・冷却のみによって形状が固定されることから、木材とは異なり、クーリングセットによって形状が固定されていると推察された。
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