研究課題/領域番号 |
16K07805
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
稲垣 哲也 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (70612878)
|
研究分担者 |
土川 覚 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30227417)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 時間分解分光法 / 蛍光寿命測定 / 近赤外分光法 / 木材 |
研究実績の概要 |
今年度は、光ファイバとモノクロメータを導入した時間分解分光光学系の設計・開発を行った。研究分野所有のパルスレーザおよびストリークカメラに光ファイバとモノクロメータを組み込み装置を構築した。パルスレーザによって木材表面にパルス波を照射し、透過したパルス光を受光ファイバによってモノクロメータに導入した。モノクロメータによって分光した光をストリークカメラに導入した。この装置を用いることで、光強度の時間プロフィルと分光情報を同時に測定できることを確認した。また、照射した波長光と蛍光の両方の時間プロフィルを獲得できることも確認した。 構築した測定システムを用いて、様々な細胞配列を持つ樹種を測定した。時間分解分光法によっていくつかの波長における吸収係数と散乱係数を厳密に決定し、細胞配列が吸収係数・等価散乱係数に及ぼす影響について観察した。 本実験によって、①散乱係数と木材の密度が正の相関関係になること、また②2樹種(アユース、ゴムノキ)において散乱係数が密度との回帰線から外れることを見出した。これら2樹種の散乱係数が回帰線から外れた要因を調べるため、木材の木口面切片の顕微鏡写真を撮影し、木材の組織構造が散乱に及ぼす影響を解析した。画像解析により木材の組織構造に由来するパラメータ因子を算出することで、細胞壁割合と最大細胞直径が散乱係数を決定づける重要な因子であることがわかった。また、樹種による散乱係数の分散が上記2つの因子を用いて相関係数0.92の精度で説明できることが分かった。これらの成果を国際学会(Asian NIR Symposium 2016)で1度、国内学会(木材学会中部支部大会)で1度発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度計画であった「光ファイバとモノクロメータを導入した時間分解分光光学系を設計・開発」を完了した。これにより、光強度の時間プロフィルと分光情報を同時に測定できることを確認した。また、照射した波長光と蛍光の両方の時間プロフィルを獲得できることも確認した。また、「樹種・含水率・密度による吸収・散乱・蛍光特性の把握」についても、様々な樹種の吸収・散乱特性の把握が完了している。特に、2樹種の散乱係数が密度との回帰線から大きく外れていることを見出し、その要因を木材の木口面切片の顕微鏡から特定した。具体的には、細胞壁割合と最大細胞直径が散乱係数を決定づける重要な因子であることがわかった。これらまでの成果を、平成28年度日本木材学会中部支部大会(国内学会)およびThe 5th Asian NIR Symposium(国際学会)においてポスター発表を行った。これらのことから、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、得られた散乱係数から細胞配列、吸収係数と蛍光情報から含水率および化学成分比率、散乱係数と吸収係数の組み合わせから密度に関する推定回帰直線を作成し、予測精度やSN 比を評価する。また、樹種・含水率・密度の異なる樹種測定を繰り返し、データの再現性を評価する。散乱の生じない試料を透過方式で分光測定した場合には、吸光度と化学成分比率が線形関係になるというLambert-Beer 則が成り立つが、木材のように試料内で光が散乱する場合には、光路長が大きくなるためこの法則を適応することができない。これらの計測で、散乱係数と吸収係数が適正に算出し、試料中の平均光路長を見積もる予定である。さらに散乱項を加えたLambert-Beer 則が適応し、直接的に化学成分や含水率を見積もる予定としている。また、測定した波長領域の中から、予測に最適な波長の組み合わせを決定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者配分額の使用が円滑に行えなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
光学系消耗品購入
|