研究課題/領域番号 |
16K07808
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
服部 武文 徳島大学, 大学院生物資源産業学研究部, 准教授 (60212148)
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研究分担者 |
山下 聡 徳島大学, 大学院生物資源産業学研究部, 講師 (70450210)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 木材腐朽菌 / ヒノキ / ホロセルロース / リグニン / 抽出成分 |
研究実績の概要 |
ヒノキ林におけるヒノキ落枝の腐朽過程を明らかにする目的の下、ヒノキ枝の腐朽期間が明らかにされた条件下、腐朽過程を定量化できる実験に着手した。具体的には、長さ20 cm、直径約10 cmヒノキ枝を、市販の洗濯ネット1枚に1つづつ入れ、徳島県阿波市ヒノキ林に、1 m間隔で、斜面傾斜方向に7列、斜面横方向に12列、洗濯ネットをペグで地面に打ち付けて、約4か月半、自然の環境下に置いた。その後、26個ヒノキ枝を回収し、重量減少率、ホロセルロース量、リグニン量、エチルアルコール/ベンゼン混液抽出量の変化を明らかにした。 重量減少率は平均値5%であり、1%危険率で統計的に有意に、重量が減少していることが知られた。一方、ホロセルロース含量、リグニン含量は、腐朽前各々55%、25%であり、既往の研究の含量と良い一致をみた。その結果、これらヒノキ腐朽程度の判断基準となる木材細胞壁主成分の定量も正しく行われていることが知られた。しかし、これら2つの物質含量の変化は、腐朽の前後で統計的に有意な差が認められなかった。一方、エチルアルコール/ベンゼン混液抽出量は、ヒノキ林に置くことにより、1%危険率で統計的に有意に22%減少したことが知られた。即ち、この期間では、抽出成分量の減少は認められるが、細胞壁成分の分解は認められないことが知られた。 既往の研究によりヒノキは抽出成分に含まれている数種の成分の働きにより、シロアリによる食害、木材腐朽菌による腐朽に抵抗する材であることが知られている。抽出成分の減少により、耐蟻耐腐朽性を付与する成分も減少していれば、今後ヒノキを分解する菌を分離培養できる可能性がより高まったと考えられ、適切な途中経過を踏んでいると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度研究実施計画は、1-1ヒノキ林におけるヒノキ乾燥枝腐朽進行の定量化、1-2ヒノキ乾燥枝を腐朽する糸状菌の分離培養、の2点を行う予定であった。 まず、1-1に関しては、研究実績で記載したようにヒノキ林にヒノキ枝試料を4か月半置いた。平成28年11月21日26個丸太を回収し、まず重量減少率の結果から、重量が減少していることが知られた。一方、ホロセルロース含量、リグニン含量は、腐朽の前後で統計的に有意な差が認められなかった。一方、エチルアルコール/ベンゼン混液抽出量は、ヒノキ林に置くことにより、1%危険率で統計的に有意に22%減少したことが知られた。即ち、この期間では、抽出成分量の変化は認められるが、細胞壁成分の分解は認められないことが知られた。 尚、エチルアルコール/ベンゼン混液抽出量に関しては、当初、別の3種類の有機溶媒で抽出し、これらの成分量の変化を、明らかにする予定であった。しかし、ヒノキ枝試料調製過程で、いくつかの材が虫の食害を受けた為、当初計画よりも実験に供した材数は減少した。さらに、他の材の虫の食害を防ぐため、早急に60℃72時間乾燥させた。その結果、生材からの有機溶媒抽出成分の採取はできなかった。そこで、セルロース含量、リグニン含量を定量する過程で必要とされる、エタノールとベンゼンを1:2 (v/v)で混じた溶媒で抽出する過程を、3種類の有機溶媒抽出過程の代替とし、抽出される成分量を、腐朽前後の材に対し比較した。 1-2については、菌を8枚のシャーレに分離培養し、継体培養を続けている。しかし、上記に記載したように、平成28年11月21日採取の時点では、ヒノキ細胞壁の分解は進行している証拠は得られていないため、得られた菌が、ヒノキ細胞壁分解能量を有するが明確ではない。従って、DNA塩基配列の情報を基に明らかにする実験には着手していない。
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今後の研究の推進方策 |
ヒノキ林にてヒノキ枝試料を引き続き腐朽させ、腐朽進行の度合いを、重量減少率、ホロセルロース含量、リグニン含量、エチルアルコール/ベンゼン混液抽出量の変化で評価する。 平成28年度分離培養した菌は、ヒノキ細胞壁の分解能力を有するかどうか明確でない。しかし、ヒノキ腐朽初期に、抽出成分の一部を異化し、腐朽の役割を一部担う菌である可能性も考えられる。その為、平成28年度分離培養された菌を、腐朽初期に役割を演じる菌類と推定し、同定することとした。 さらに、伐採時期が明らかにされているヒノキ切株より、ヒノキ細胞壁腐朽菌の分離培養も検討する。 尚、平成29年度さらに腐朽されたヒノキ枝試料、また、上記のヒノキ切株から分離培養される菌は、ヒノキ枝を腐朽できる菌類が採取できる可能性が高まる事が期待される。従って、試料表面に存在する菌類の滅菌程度を低くすることにより、細胞壁が分解を受けている箇所から、より高い頻度で菌が分離培養できるようにする。さらに、既報に基づき、殺菌剤ベノミルを濃度を変えて混和させた培地で分離培養することにより、目的とする菌の選択率を上げる工夫を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画においては、ヒノキを腐朽できる菌類を採取するため、重量減少率だけでなく、ホロセルロース又はリグニン含量の変化において腐朽を支持する結果が得られてから、分離培養された菌を同定することが望ましいと考えていた。このホロセルロース、リグニンの定量は、当方の設備、人手では、1週間で8サンプルの処理に留まり、最終的な結果がえられるまで時間がかかった。最終的に得られた結果では、約4か月半の腐朽期間では、この2つの化学成分量の変化が有意でなく、抽出成分量の減少のみが認められた。その為、菌の同定に進行してよいか逡巡した結果、現在分離培養している菌の同定に着手できていなかった。以上が、次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
一、平成28年度分離培養途上の菌に関し、分離培養を完遂させる。二、上記一で分離培養された菌を遺伝子の塩基配列を基に同定する。以上2点に使用する。上記一については、殺菌剤の濃度を変えた培地に植え継ぐことにより、上記一を行う。上記二については、菌糸からゲノムDNAを抽出し、ユニバーサルプライマーを用いて、ITS領域を増幅させる。TA-cloningの後、外注にて塩基配列を決定する。尚、平成28年度分離培養菌株からは、研究実績、進捗状況で記載した通り、木材腐朽菌能力を有するとは考えにくいが、もし、既往の知見と比較し、既に木材細胞壁分解能力が他の材で示されている菌類であった場合には、ヒノキを用いた腐朽試験に進める。
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