研究課題/領域番号 |
16K07810
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
市浦 英明 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (30448394)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 湿潤紙力 / イオン液体 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、イオン液体である1-ブチル-3メチルイミダゾリウムクロライド([BMIM]Cl)を用いて、紙に処理を行い、湿潤紙力に及ぼす影響を検討した。最適な処理条件の確立および湿潤強度向上メカニズムの解明を試みた。 80℃に加温した [BMIM]Clにろ紙を5秒から30秒間浸漬処理を行った。処理した紙を水中で振とうするほぐれやすさ試験を行った結果、ブランクであるろ紙は元の形状を維持できず、セルロース繊維が分散した。一方、イオン液体で処理したろ紙は、セルロース繊維が水中でほぐれず、シート形状を維持した。わずか5秒間のイオン液体処理で、湿潤紙力の付与が可能であった。調製したろ紙の親水性を検討するために行った動的接触角試験の結果、イオン液体で処理したろ紙は、処理時間に関わらず、400 msで水分を吸収した。ブランクのろ紙は、300 msで完全に水分を吸収した。これらの結果は、ブランクとほぼ同じ結果であり、親水性を維持した状態で湿潤紙力が向上したことを示す。 湿潤引っ張り試験の結果、イオン液体で処理したろ紙の湿潤引っ張り強度向上が確認された。また、処理時間が長くなるにつれて、湿潤引っ張り強度は高くなった。イオン液体で処理したろ紙のSEM画像から、セルロース繊維間にセルロースフィルムの生成が確認された。X線回析の結果、イオン液体の処理時間が長くなるにつれて、セルロースⅠ型に由来するピークが減少する傾向を示した。イオン液体を用いて、セルロースフィルムを調製した場合、セルロースⅠ型からアモルファスセルロースに変化する。このことから、イオン液体処理により、紙表面のセルロースが一部溶解した結果、アモルファスセルロースフィルムが形成されと考えられる。よって、イオン液体処理による湿潤紙力強度の向上は、アモルファスセルロースフィルムの生成に起因していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、紙をイオン液体で処理することにより、紙に湿潤紙力強度を付与することを試みた。その結果、わずか5秒から30秒間イオン液体で処理することにより、湿潤紙力強度が向上することを明らかにした。イオン液体で処理した紙を電子顕微鏡で観察した結果、イオン液体によって、紙表面上のセルロースが一部溶解し、セルロースフィルムが形成していることが分かった。また、X線回折分析に供した結果、このセルロースファイルは、アモルファスであった。イオン液体から調製したセルロースフィルムの湿潤強度は、向上することが示されている。よって、イオン液体処理による湿潤紙力強度向上メカニズムは、アモルファスセルロースフィルムの生成に起因していることを明らかにした。 今年度は、紙へのイオン液体処理が湿潤紙力強度に及ぼす影響を主に検討し、成果を得ることができた。また、湿潤紙力強度向上メカニズムについて知見を得ることができた。このことから、概ね今年度の目標を達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、使用したイオン液体である[BMIM]Clの再利用の検討を行う。 紙へのイオン液体処理後、貧溶媒であるエタノールに浸漬する。次に、蒸留水を用いて[BMIM]Clを除去した後、プレス乾燥を行い、湿潤紙力を有する紙の調製を行う。その際に、 [BMIM]Cl- エタノールおよび[BMIM]Cl- 水の混合液が生じる。これらの混合液を減圧蒸留処理により、[BMIM]Clとエタノールおよび水との分離を行う。その回収した[BMIM]Clを用いて、平成28年度と同様に調製した紙に処理を行い、 回収した[BMIM]Cl性能の評価を行う予定である。また、回収したイオン液体中の含水率の影響についても検討を行う。 そして、再生イオン液体の有用性について、明らかにする。
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