研究課題/領域番号 |
16K07810
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
市浦 英明 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (30448394)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | イオン液体 / 湿潤紙力 / 再生イオン液体 |
研究実績の概要 |
本研究ではイオン液体である1-ブチル-3メチルイミダゾリウムクロライド([BMIM]Cl)の紙への浸漬処理により、紙中のセルロースを部分溶解後、エタノールに浸漬処理を行い、湿潤紙力を付与した紙を調製が可能であった。そのため、処理後には、[BMIM]Clとエタノール混合液が生じる。この混合液から減圧蒸留処理により、[BMIM]Clとエタノールの分離を行った。その回収した[BMIM]Clを用いて浸漬処理した紙の湿潤紙力増強効果を検討し、回収した[BMIM]Cl性能の評価を行った。 回収したイオン液体中の含水率の影響について検討を行った。 減圧蒸留により回収した再生[BMIM]Clの含水率は、15.23%であった。この[BMIM]Clを105℃で乾燥を行った。乾燥時間により、含水率の異なる再生[BMIM]Clを用いて、紙に浸漬処理を行った。ほぐれやすさ試験を行った結果、乾燥時間が1時間から3時時間で含水率が10%以上の場合、紙の形状を維持することができなかった。しかし、乾燥時間が5時間で含水率が5.61%、乾燥時間が7時間で含水率が0.23%の場合、ほぐれにくくなり、乾燥時間が9時間で含水率が0%で、完全に紙の形状を維持することができた。含水率が0%の再生イオン液体を用いて、5秒間浸漬処理した紙の乾燥紙力引っ張り強度および湿潤紙力引っ張り強度を測定した結果、それぞれ3.06 kN/mおよび0.190 kN/mであった。一方、バージンの[BMIM]Clで処理した紙の乾燥紙力引っ張り強度および湿潤紙力引っ張り強度は、それぞれ2.85 kN/mおよび0.215 kN/mであった。この結果から、使用した[BMIM]Clを回収した再生[BMIM]Clの性能は、含水率が0%の場合、バージンの[BMIM]Clと同様の性能を示した。一度使用した[BMIM]Clは、回収し、再利用可能であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、紙をイオン液体で処理することにより、紙に湿潤紙力強度を付与することを試みた。 平成28年度は、わずか5秒から30秒間イオン液体で処理することにより、湿潤紙力強度が向上することを明らかにした。また、イオン液体で処理した場合、紙表面上のセルロースが一部溶解し、セルロースフィルムが形成していることが分かった。よって、イオン液体処理による湿潤紙力強度向上メカニズムは、アモルファスセルロースフィルムの生成に起因していることが明らかになった。 平成29年度は、使用したイオン液体を減圧蒸留により回収した再生イオン液体を用いて、紙に浸漬処理を行った。その結果、再生イオン液体の含水率が10%以上と高い場合、湿潤紙力増強効果は、観察されなかった。しかしながら、含水率を5%以下にした場合、湿潤紙力増強効果が確認され、0%にした場合、バージンのイオン液体と同等の性能を示すことを明らかにした。イオン液体を再利用することにより、廃棄する必要がなくなり、環境負荷を低減することができた。 今年度までに、紙へのイオン液体処理が湿潤紙力強度に及ぼす影響、さらにイオン液体を再利用する際に必要な条件を明らかにすることができた。 このことから、概ね今年度までの目標を達成したと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は、従来適用が難しかった紙の水環境下での応用展開を目的として、高度浄水処理に適用可能な水環境浄化シートの創製を目指す。製紙工場などの排水に含まれる色素化合物や新たな水環境汚染物質として問題となっているヒトや家畜の排泄物から放出される医薬の除去システムへ適用可能な機能紙の調製を行う。活性炭やゼオライトなどの吸着剤を複合化させた機能紙の調製条件とその紙に対する[BMIM]Cl処理条件が湿潤紙力強度と水質浄化機能に及ぼす影響を検討し、水環境浄化能を有す機能紙調製条件の最適化を図る。 主に、(1) 吸着剤含有機能紙の調製条件、(2) 湿潤紙力および乾燥紙力強度、(3)水環境浄化能の3点を検討する。歩留まり向上剤などの定着剤の添加量や吸着剤添加量などの抄紙条件の検討、調製条件と湿潤・乾燥紙力強度の関係性の検討、水中での紙からの吸着剤の脱離の検討および調製条件と吸着能との関係の検討を行い、最適な調製条件を明らかにする予定である。
|