この研究では、早・晩材形成機構を解明するため、スギ木部形成におけるサイトカイニンの役割について知見を蓄積する。 まず、内生植物ホルモンの組織ごとの分布を解析するために、クライオスタットでの手技の改良に加えて、各種植物ホルモン定量における抽出精製方法およびLC/MS条件の最適化をおこなった。その結果、厚さ30μmの切片3~5枚ごとに内生植物ホルモンの組織内分布を明らかにできる方法を確立できた。 開発した方法で、早材形成中のスギ形成層付近と晩材形成中のスギ形成層付近の内生植物ホルモンの組織内分布を調べた。晩材形成中では、オーキシンは、スウェーデンの研究チームが報告したように、形成層にピークがあり師部側や木部側に離れにつれて激減した。活性型サトカイニンであるゼアチンは、形成層と師部にわずかに存在した。不活性型のサイトカニンであるゼアチンリボシドは、木部に大きなピークが存在した。一方で、早材形成中のスギ樹幹では、オーキシンのピークは形成層にあるものの、晩材形成中試料に比べると最大値が小さく、師部側、木部側へ離れるにつれて緩やかに減少した。ゼアチンは、大きなピークが木部側に存在し、ゼアチンリボシドは、小さなピークが師部側に存在した。すなわち、早材形成中には活性型が木部に、晩材形成中は不活性型が木部に存在した。早材形成は活性型サイトカニン投与によって誘導され、オーキシン投与によって阻害されることをすでに報告した。この研究で得られた早・晩材形成中の植物ホルモンの組織内分布は、投与実験の結果を支持するものであった。 さらに、開発した方法では、サンプル数が多くなると圧力上昇によるカラムの寿命低下が顕著となった。そこで、移動層としてアセトニトリル、理論段数と耐久性のバランスが取れたカラムを組み合わせることで、多数のサンプルの分析において、精度が高く安定した分析ができることがわかった。
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