研究課題/領域番号 |
16K07818
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
星野 英人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (20371073)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人工蛋白質 / セルロース・蛋白質ハイブリッド / 高度化利用 / プロテアーゼ活性 |
研究実績の概要 |
Strept-tagとストレプトアビジンを利用した系の検討が行き詰まったため、戦略を一部変更し、hCBDを介して紙素材に抗体を選択的に固着させる試みを実施した。検討は2系統で進めた。即ち、ペプチドタグと従来のIgG抗体を利用する試みと、アルパカ由来の抗GFP VHH抗体を用いる試みである。前者は未だ途上で明確に良好な結果は得られていないが、後者は予想以上に優れた結果に結実しつつある。 研究代表者は、VHH抗体とhCBDを融合した新規人工蛋白質をVHH-C Linkと命名した。抗GFP VHH抗体を用いた抗GFP VHH-C Linkに関して、当該VHH-C Link/濾紙ハイブリッドを作製し、室温下での長期に渡る乾燥保管後のEGFPに対する当該VHH抗体の抗原結合性能を検討し、7ヶ月以上の保管後も十分なVHH抗体の抗原結合性能を安定保持することを確認した。使用した抗GFP VHH抗体は、EYFPよりもEGFPへの結合親和性が高く、また、EGFPを含むBAFをも捕捉し、且つ化学発光活性を阻害しないことを新たに明らかにした。 更に、従来のニトロセルロース膜ではなく、新たにペーパークロマトグラフィー専用紙を展開膜とし、テストラインに抗GFP VHH-C Linkを塗布したラテラルフローデバイスを試作し、当該デバイスにEGFPをフローさせ、テストライン上でEGFPを確実に捕捉可能なことも確認した。この成果は、サンプルパッド上に固相化したhCBD-(プロテアーゼ切断配列)-BAFを適当なプロテアーゼで切断し、その結果、遊離するBAFを効率良く捕捉する本研究で目指すデバイスの性能を十分満たすものである。1件の特許出願と3件の学会発表を行った。 一方、大腸菌で作製したSARS-3CLプロテアーゼ前駆体の成熟化に関して、プロテアーゼ消化条件が整わず、最終年度の課題として委ねることにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、“hCBD-BAF/セルロースハイブリッド”を利用した、プロテアーゼ活性センサー技術を実用化レベルに高めることである。そのため、研究1)hCBD-BAF/紙複合材への感染症検出センサー機能付与の試み、と研究2)hCBDを介した紙複合材による、任意蛋白質の捕捉系開発の試みの2系統の研究で開始した。 初年度に、研究1)に関しては、激しい振盪でも繊維脱離しないセルロース素材を特定し、SARS-3CLとシャペロン融合体の大腸菌での効率的生産系を確立した。研究2)に関しては、hCBD-SAm2-strept-tag捕捉系の開発を試みるも停滞し、当初予定を前倒しし、抗体を利用した捕捉系の開発に方針転換した。 本年度は、研究1)に関して、SARS-3CL-シャペロン融合体から成熟SARS-3CLの生成を検討したが、プロテアーゼの非特異的分解などにより難航した。研究2)に関しては、①既存のIgG抗体を活用する系と、②ラクダのVHH抗体を用いる系を検討した。①ではIgG抗体を捕捉するアダプター分子(IgG-Hand)を新たに開発し、IgG-Hand-hCBD融合体により、適当なIgG抗体をセルロース基材に固相化し、抗原蛋白質を捕捉することを、②ではhCBDを介してVHH抗体を紙基材に固相化し、抗原を捕捉することを目指した。①のIgG-Handの開発は難航中であるが、②のVHH-C Linkは予想以上に高性能なことが判明した。抗GFP VHH-C Linkを活用して試作したラテラルフローデバイスは、抗原であるEGFP単体だけでなく、EGFPを構成要素とするBAFをも捕捉することが可能であり、かつ、抗GFP VHH-C Linkで紙上に捕捉されたBAFは化学発光活性も十分維持していた。これらのことにより、当該研究申請書で想定したプロテアーゼ活性検出デバイスの基礎技術の確立に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、“hCBD-BAF/セルロースハイブリッド”を利用した、プロテアーゼ活性センサー技術を最終的に実用化レベルに高めることである。 研究1)hCBD-BAF/紙複合材への感染症検出センサー機能付与の試み:当初、hCBD-BAFを含む“プロテアーゼ活性試験紙”を加温振盪する系を想定し、研究を進めていたが、本年度の抗GFP VHH-C Linkの開発成功により、ラテラルフローデバイスによる実用化が可能であることが判明した。そのため、この系での開発に一本化し、加温振盪系については中断する。研究2)の成果を取り込み、抗GFP VHH-C Linkを活用したラテラルフローデバイスでは、先行するHRV-3Cプロテアーゼ系での化学発光による高感度検出系の検討を優先させ、これと併行して、プロテアーゼ活性を発揮する成熟SARS-3CLの生成に関する諸問題の解決を試みる。その上で、まずは研究室レベルでの、安定した検査ツールとしての完成を目指す。 研究2)hCBDを介した紙複合材による、任意蛋白質の捕捉系開発の試み: 既報告のVHH抗体に関してVHH-C Linkへの適用例を増やす試みに注力する。セルロース基材に生物機能(機能性蛋白質or酵素)を付与する手法に、一定の一般性がある事例を増やし、セルロース素材を機能素材として応用する可能性を拡げていく。尚、IgG-Handの開発に関しては、最優先課題から格下げして、検討課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的な費用出費を実施した結果、3月上旬時点で若干の研究費が残った。年度の切替時の消耗品等の緊急支出に備えて次年度に繰り越した。
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