研究課題
三重県英虞湾においては、有害ラフィド藻であるシャットネラ属(以下、シャットネラとする)が大規模な赤潮を引き起こすことがある。本研究課題は、研究代表者が以前開発した現場でのシストの発芽細胞を直接捕らえることができる器具(Plankton Emergence Trap/Chamber: PETチャンバー)を用いて本属シストの現場海底からの発芽を世界に先駆けて実測し、また栄養細胞群集の季節消長を追跡することで、同湾におけるその個体群形成機構を解明することを目的としている。2016年度に引き続き、2017年度も三重県英虞湾内に設けた一定点において季節的に調査を行った。PETチャンバーによる発芽量の実測調査は、2017年8月を除く5~12月にかけて毎月1回行った。その結果、5、7、10、11月に発芽細胞を検出し、その発芽フラックスはそれぞれ、621、207、725、104 cells m-2 day-1であった。また、2017年4月から2018年1月までの毎月、水柱中における栄養細胞の季節消長を調査したところ、栄養細胞は8月に初めて出現して大規模なブルームを形成し、水深5m層では3,600 cells L-1を超える密度となっていた。しかし、9月にはブルームが終結して、その後水柱中から栄養細胞は検出されなくなった。つまり、2017年にはシャットネラは英虞湾において水温が最も高く(約30℃)なる8月のみに大規模な個体群を形成したが、その個体群形成にはそれに先立つ時期における海底からのシストの発芽細胞が栄養細胞増殖のタネとして寄与していることが示唆された。また、10月と11月にも海底からシストの発芽がみられたものの、水柱中で栄養細胞が見られなかったということは、個体群の形成にはシストの発芽量の大小ではなく、栄養細胞自身の増殖の有無が大きく関与していることが推察された。
2: おおむね順調に進展している
現場ではおおむね天候に恵まれ、ほぼ予定通りに調査を実施することができた。また海水サンプルや泥サンプルの処理、ならびにプランクトンの顕微鏡観察も順調に進んでいる。これまでのところ、本研究課題の遂行において大きな支障は発生していない。
これまで採集しフォルマリンで固定した大量の海水サンプルを検鏡し、シャットネラに対して栄養塩摂取の競争相手となるような珪藻や渦鞭毛藻などのプランクトンを計数する。また、水温、塩分などの物理的環境データの整理を進め、シャットネラ栄養細胞の出現との関係を解析する。
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Phycologia
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Plankton and Benthos Research