ラフィド藻類のシャットネラ属(以下、シャットネラとする)は国内外の各地で赤潮を起こし魚類の大量斃死を引き起こす有害鞭毛藻である。シャットネラはその生活史の一時期に海底上で生残するステージであるシストを形成するので、本属の栄養細胞個体群形成機構を解明するためにはシストの発芽動態について研究することが必須である。本研究課題は、シャットネラの大規模な赤潮が時として発生する三重県英虞湾を研究対象海域として、申請者が以前開発した現場でのシストの発芽細胞を直接捕らえることができる器具(Plankton Emergence Trap/Chamber:PETチャンバー)を用いて本属シストの現場海底からの発芽を世界に先駆けて実測し、また栄養細胞群集の季節消長を追跡することで、その個体群形成機構を解明することを目的とした。 本研究を開始した2016年度と翌年度の2017年度には、英虞湾内の湾奥に設けた一定点において、PETチャンバーによる発芽量の実測調査を季節的に行い、現場海底からの発芽時期と発芽量を明らかにした。またこの調査と同時に、水柱中のシャットネラ栄養細胞の季節消長も調べた。本研究最終年度の2018年度には、栄養細胞の増殖とシスト発芽の温度に対する応答を培養実験によって調べ、それぞれの可能温度範囲と適温を明らかにした。これらの調査・実験の結果から、現場海底上におけるシストは泥温度が発芽可能域に達すると直ちに発芽を開始して栄養細胞を水柱中に供給し、次いで水温が増殖に適した時期になると栄養細胞が大きな個体群を形成するということが明らかとなった。すなわち本研究により、シストは栄養細胞増殖のタネとして寄与しているのであって、個体群の形成にはシストの発芽量の大小ではなく栄養細胞自身の増殖の程度が大きく関与するという個体群形成機構が解明された。
|