研究課題/領域番号 |
16K07826
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
上 真一 広島大学, 生物圏科学研究科, 特任教授 (80116540)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有明海 / ビゼンクラゲ / 商業漁獲 / 個体群動態 / 乱獲 / 資源管理 / ポリプ / 環境要因 |
研究実績の概要 |
有明海は現存する我国唯一のビゼンクラゲ漁場である。加工されたクラゲは専ら地元消費されてきたが、2011年以降の本種の継続的な大発生により今では加工品の大半が中国へ輸出され、地元経済を大いに潤している。しかし、現状では乱獲などによる資源枯渇の危険性は極めて高く、有効な資源管理対策が必要である。そのためには本種の生態解明が必須である。 メデューサの個体群動態の解明にはポリプ生息場所の特定が重要であるが、度重なる調査にもかかわらずポリプの存在場所は依然として不明のままである。そこで、有明海奥部の六角川河口域付近のカキ礁を形成するスミノエガキを採取し、殻に付着していると予測されるポリプの探索を行った。しかし、今回も発見には至らなかった。 4~9月の期間、月に2~3回の頻度で地元漁業者のクラゲ漁業に同行し、採捕したメデューサの体サイズ、体重を測定し、唯一の硬組織である平衡石を採集し、アルコール中に保存した。なお、平衡石は重量を測定し、平衡石重量-日齢関係を明らかにしてメデューサの日齢を推定するために使用する。また、体サイズ、体重データは既得のデータに追加することで、より精度の高い成長曲線を得ると同時に、成長速度の年変動の有無についても検証する。 2017年のビゼンクラゲの資源状況をクラゲ漁業者から聞き取り調査した。その結果、九州北部を襲った異常豪雨による大量出水(土砂や流木も)、その後の貧酸素水塊の形成により、7月上~中旬にクラゲの大量斃死が起こり(特に佐賀県側の海域)、以後ほとんどの漁業者がクラゲ操業を中止した。漁獲量は近年で最低であった。 針クラゲ類(ミズクラゲ、アカクラゲ、ビゼンクラゲ、エチゼンクラゲ)の大量発生をもたらす環境要因に関する論文2篇を発表した(Takao and Uye, 2018; Kogovsek et al., 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最重要課題の一つは、毎年のメデューサ初期発生量を決定する環境要因などの解明である。そのためには、エフィラを放出するポリプの生息場所の特定とポリプが経験する環境要因の把握が必須であるが、これまで7年間の継続的な調査にもかかわらずビゼンクラゲのポリプは発見できていない。これが本研究の進捗状況がやや遅れている最大の原因である。ビゼンクラゲ、エチゼンクラゲなどの根口クラゲ類は世界各地の沿岸域に広く分布しているにもかかわらず、野外におけるポリプは未だに発見されておらず、生活史研究における最大のミステリーとなっている。現在は六角川河口域に生息するスミノエガキの殼を中心にポリプ探索を行っている。より上流部の河川域では余りにも塩分が低くなるので本種ポリプの生存は不可能であろう。従って、今後はより塩分の高い沖合海域にも調査海域を拡大し、カキ殼以外の基質にも注目してポリプの発見に努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も基本的にはこれまで通りの調査計画に基づき、下記の調査などを行う予定である。 1)六角川河口域を含む有明海奥部でのポリプの探索。そのためには、付着基質の可能性の最も高いカキ殼のみならず、海苔養殖用のプラスチック製ポールなども基質対象にしたより広範な探索を試みる。2)アンコウ網、刺し網などを操業するクラゲ漁業者の船に同乗し、定期的にメデューサを採取して、それらの体サイズ、体重の測定、さらに平衡石、生殖腺の採取を行う。消化管内容物についても観察する。3)クラゲ漁業者への聞き取り調査から、クラゲ資源動向を把握する。4)漁業者の操業日誌に基づいて、単位努力量当りのクラゲ漁獲量の推定を行う。5)有明海のビゼンクラゲについて約10年の研究実績があるので、これまで明らかになっている事項を総説の形でまとめ、論文として投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポリプ生息場所の特定に至らなかったので、ポリプ生息環境を測定するための機器の購入を行わなかった。 ポリプ発見のために、これまで以上の探索の機会を増やし、もし発見されれば、機器を購入し環境要因の測定を行う。
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