生態に関する情報が限られており、鹿児島県により消滅危惧Ⅱ類に指定されている屋久島のアユの現在の生息状況、個体群構造、生活史について明らかにした。これまでに生息が確認されている一湊川、宮之浦川、安房川、栗生川、永田川で潜水目視調査を行ったが、調査期間を通じて一湊川、安房川、永田川で成魚を確認することはできなかった。仔稚魚の採集調査を実施したところ、一湊川では少数ではあるが標本が採集されたため、低密度ではあるが依然として個体群は維持されていると考えられた。十分な個体数の得られた宮之浦川と栗生川の仔稚魚標本を用いて遺伝解析を行った。その結果、両河川の個体群間には有意な遺伝的差異がみられ、現在、両河川間の個体の移動はほぼないと考えられた。宮之浦川個体群には、遺伝的に分化したいくつかの系統が認められ、本土産よりは若干低いものの遺伝的多様性がみられた。一方、栗生川個体群では遺伝的多様性は極めて低く、本河川における個体群が小さいことを反映していると考えられた。宮之浦川及び栗生川個体群を対象とし、仔稚魚の耳石による成長解析を行った。その結果、本土のアユに比べて産卵開始時期は11月中旬と遅く、産卵期間はおよそ20日と極めて短いことが分かった。成長率は本土の個体群に比べて最も高く、屋久島の中でも河川間で成長率に違いがみられた。栗生川の方が宮之浦川よりも成長が早く、河口域の環境や餌環境の違いが影響を及ぼしている可能性が示された。同じ低緯度の島嶼である奄美大島に生息するリュウキュウアユとは成長率、海洋生活期間、遡上生態に明瞭な違いがみられた。
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