研究課題/領域番号 |
16K07828
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
近藤 竜二 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (30244528)
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研究分担者 |
高尾 祥丈 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (00511304)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 微小鞭毛虫 / 底泥 / 嫌気 / 多様性 / 集積培養 |
研究実績の概要 |
先ず、底泥からの鞭毛虫細胞の回収方法について検討した。グルタールアルデヒドで固定した底泥試料をMilli-Q水で30倍に希釈してPercollを用いた密度勾配遠心に供し、得られた鞭毛虫画分をプリムリンで染色することによって、底泥中の少なくとも75%以上の鞭毛虫が回収できた。この方法で、本研究の調査対象としている日向湖の底泥中の鞭毛虫を計数したところ、底泥直上水の鞭毛虫の現存量が100 cells/mlのレベルであるのに対し、底泥中は10,000~10,000 cells/mlと水中の数十倍から数百倍の現存量で、嫌気的な環境でも高密度で鞭毛虫が存在することが明らかとなった。日向湖の他、汽水の水月湖、淡水の琵琶湖でも鞭毛虫を計数したが、日向湖と同様に底泥中の鞭毛虫は高い現存量であった。 日向湖、水月湖、琵琶湖の各湖から採取時期の異なる底泥2試料を採取し、泥試料から抽出したDNAを鋳型に、V4およびV5領域を含む18S rRNA遺伝子の一部をPCRで増幅した。このPCR産物をIllumina社のMiSeqによって塩基配列を決定した。QCおよびキメラチェックを行った後、動物や光合成(微)生物、カビなどの塩基配列を除いたところ、各試料から約10万~40万配列が得られた。近縁配列をまとめ、最小共通祖先(LCA)法を用いて代表配列の分子系統学的位置を推定した。原生生物の多様性は、湖間で異なっていた。嫌気的な底泥中にも極めて多様な原生生物が存在することが本研究で明らかとなった。また、未同定の配列の他、既存のどの分類群にも当てはまらないものも多くみられ、未知の原生生物の存在も示唆された。 また、日向湖の底泥から、形態の異なる少なくとも3種類の鞭毛虫の集積培養に成功し、現在この培養を維持している。このうち1種類の鞭毛虫については、単一種の培養が確立できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の平成28年度の計画は、日向湖底泥中の鞭毛虫の現存量と群集組成を明らかにすることであった。密度勾配遠心法による底泥中から鞭毛虫を回収する方法を検討し、底泥中の鞭毛虫を計数する方法を確立した。この方法を用いて本研究の対象である日向湖の他、水月湖と琵琶湖を対照として加え、底泥中の鞭毛虫を計数したところ、嫌気的な環境でも極めて高い現存量であることが明らかとなった。 また、次世代シーケンサーを用いて、底泥中の原生生物の多様性を調べた。その結果、嫌気的な底泥中にも極めて多様な原生生物が存在することが本研究で明らかとなった。 今年度のもう一つの計画は、底泥から鞭毛虫の培養株を取得することであった。これまでに我々が開発した嫌気性鞭毛虫を培養する技術を用いて、形態の異なる3種類の鞭毛虫の集積培養に成功した。このうち1種類については、単一種の培養に成功した。この株については、18S rRNA遺伝子の塩基配列を決定したが、偽遺伝子である可能性が高かったので、再度塩基配列の決定を行う必要がある。 一方、ラビリンチュラ類については、日向湖底層の嫌気環境から数株の分離に成功したが、何れも好気性の株であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度で得られた鞭毛虫の培養株をクローン化し、単一種の細菌との二者培養系を確立したうえで、増殖生理と細菌摂食活性を明らかにする。また、18S rRNA遺伝子を解析し、系統学的位置を明らかにするとともに、各培養株に特異的な遺伝子プローブの開発に着手する。 18S rRNA遺伝子の解析結果から、鞭毛虫の培養株が新種である可能性が高ければ、細胞内外の微細構造を電子顕微鏡で観察し、新種登録を目指す。 ラビリンチュラ類については、引き続き嫌気性の株の取得を試みるとともに、これまでに分離された株の各種酵素活性を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの予算を執行したが、端数として894円を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の残額は、平成29年度の予算と合わせて物品費として使用する予定である。
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