研究課題/領域番号 |
16K07833
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
中山 奈津子 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (20612675)
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研究分担者 |
浜口 昌巳 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主幹研究員 (60371960)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カレニア・ミキモトイ / KmV / 宿主ウイルス間の相互作用 |
研究実績の概要 |
有害藻類カレニア・ミキモトイ(Karenia mikimotoi)による赤潮は,規模や分布域を拡大し,日本の水産業に深刻な被害を及ぼしている。申請者は,最近,カレニアを特異的に殺滅するウイルス(KmV)3株を,赤潮衰退期の海水から分離・培養することに成功した。これは,カレニア赤潮の衰退にウイルスが関わっている可能性を示す重要な発見であった。ウイルスは,標的生物のみを殺滅し,爆発的に増えるので,大増殖する赤潮生物を連鎖的に死滅させることが可能であり,赤潮防除技術への利用が大いに期待できる。本課題では, KmVの性質,殺藻力や殺藻範囲,現場におけるカレニア個体群への影響などを詳細に把握するために,KmVの性状解析,定量PCRや抗体法などKmVの高精度モニタリング技術の開発,カレニア細胞内でのKmVの挙動や相互作用を明らかにすることを目的としている。具体的には,研究期間内に,1)KmVの形態学的特徴および遺伝情報の解明,2)KmV感染時のカレニアの増殖特性の評価,3)定量PCRや抗体法など分子技術に基づいた高精度モニタリング手法の開発,4)モニタリング技術を用いたウイルスがカレニアの増殖や衰退に及ぼす影響の評価,感染機構に関する知見の収集等を実施し,カレニア赤潮の衰退に及ぼすウイルスの影響や生態学的意義を明らかにし,赤潮防除技術の開発に向けた基盤作りを行うことであった。29年度までに,透過型電子顕微鏡で宿主であるカレニア・ミキモトイ内に存在するウイルス粒子を観察し,形態学的特長を明らかした。また,分子技術による生理生態の把握のために必須である遺伝子の解析を進めた。さらに,ウイルス感染時にカレニア生体内で起こるであろう核の形態変化をモニタリングする技術を開発するため,画像解析技術の確立に向けて実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,カレニア・ミキモトイに感染するウイルスは3個見つかっていたが,いずれも感染の再現率は一定ではなかった。時間のかかる時もあれば,短時間で感染する場合もあった。今年度は,非常に感染力の強いウイルスを新たに分離・精製することに成功したため,このウイルスの解析を進めることとした。従って,まず,ウイルスKmVがカレニア・ミキモトイに感染している様子を示すために,透過型電子顕微鏡による細胞内観察を試みている。細胞内でウイルスを観察できる瞬間は,非常に限られており、植物プランクトンは,固定液の種類や濃度によって細胞がこわれることがしばしばあり,固定や試料調製が非常に難しい。昨年度までに固定法等の条件検討を概ね終えているため,観察に取り掛かっているところである。また,分子技術導入の基盤となる塩基配列の解読については,同様に新規ウイルスのDNAを回収し,現在解析中である。さらに,赤潮藻類衰退へのウイルスの影響について評価することを目的として,ウイルス感染時に起こる宿主の核の形態変化を画像解析し数値化する技術を開発している。2017年度は,対象種をKarenia mikimotoi (以下,カレニア)とそのウイルスKmDNAV5とし,昨年度に検討した条件にて,カレニアにウイルスを感染させて,形態変化を4日間観察した。その結果,ウイルスを感染させた細胞の核は,感染させなかった細胞の核より,明らかにサイズが縮小し,形態の変化が認められた。現在,基礎データを蓄積しているところである。細胞の大きさには個体差があり,さらに,細胞分裂時の核変化も考慮すると,カレニア細胞とウイルスに感染されたカレニア細胞の核の大きさ,形態の違いを画像解析できる程度まで発展させるには,いくつかの条件検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
申請時に計画した4つの案1)KmVの形態学的特徴および遺伝情報の解明,2)KmV感染時のカレニアの増殖特性の評価,3)定量PCRや抗体法など分子技術に基づいた高精度モニタリング手法の開発,4)モニタリング技術を用いたウイルスがカレニアの増殖や衰退に及ぼす影響の評価,感染機構に関する知見の収集,について,29年度までに,概ね計画通り進行したが,ウイルスの感染力にバラツキが見られる場合もあり,定量PCRの開発には着手できなかった。30年度は,29年度に新たに分離・精製することに成功した感染力の強いウイルスについて,電子顕微鏡写真の蓄積や遺伝情報の解析を進め,3)の定量PCRの開発を行うとともに,2)のKmV感染時の増殖特性の把握に向けた試験を網羅的に行う。さらに,ウイルス感染時の宿主の核変化を画像解析する技術を確立し,赤潮衰退時におけるウイルスの影響を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム解析を外注するための費用として計上していたが、試料調製に時間がかかり、次年度早々に発注することになった。
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