研究課題/領域番号 |
16K07836
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
二見 邦彦 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (00513459)
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研究分担者 |
片桐 孝之 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (50361811)
舞田 正志 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (60238839)
延東 真 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (80128355)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | miRNA / ティラピア / 農薬類 / バイオマーカー / リアルタイムPCR |
研究実績の概要 |
食品の安全性確保は世界的に重要性が増してきている。我が国では,ポジティブリスト制により0.01 ppmを超える農薬類およびそれらの代謝物を含有する食品の流通が禁止となり,生産段階での適切なリスク管理がより一層求められるようになった。しかしながら,水産養殖の過程では使用されないはずの農薬が養殖魚から検出されるなど,想定外のケースが報告されており,これらを未然に防ぐことは困難である。 近年,内在性の短鎖RNAであるmiRNAが,ヒトの血清や血漿においても安定して存在することが示され,医学分野においては,薬の毒性評価や病気の診断のためにmiRNAをバイオマーカーとして用いる研究が盛んに進められている。一方で,養殖魚における残留農薬類のモニタリングを目的とした研究は皆無である。そこで本研究では,魚類のmiRNAをバイオマーカーとした,養殖魚における残留農薬類の新規モニタリングシステムを開発することを目的とした。 まず,合成抗菌剤マラカイトグリーンの代謝物LMGと有機塩素系農薬エンドスルファン(EN)の曝露によって発現が変動するmiRNAを探索した。ティラピアでは,魚種間で保存されたmiRNAが21種同定されていたため,その中から薬物代謝酵素などを標的としていると推測される6種類のmiRNA(miR-153b、-22a-1、-34、-222、-133、-199-1)を選択し,それらの発現変動を調べた。LMGまたはENを含む飼料(それぞれ2.5および50 mg/kg)を3日間連続で給餌したティラピアの肝臓からsmall RNAを抽出し,Universal stem-loop primerによりcDNAを合成した後,リアルタイムPCRを行った。その結果,LMG曝露においてはmiR-199-1とmiR-34が,EN曝露においてはmiR-22a-1の発現が有意に上昇することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,ゼブラフィッシュでは247種,ティラピアでは魚種間で保存されたmiRNAが21種同定されている。そこでまず,ドライ(情報)型手法により,これら既知のmiRNAの中から,薬物代謝酵素や内分泌攪乱化学物質の受容体などをターゲットとしていると推測される6種類のmiRNA(miR-153b、-22a-1、-34、-222、-133、-199-1)を選択した。リアルタイムPCRの結果,LMG曝露においてはmiR-199-1とmiR-34が,エンドスルファン曝露においてはmiR-22a-1がバイオマーカー候補となり得ることが明らかとなった。当初の研究計画では,必要に応じてcDNAライブラリーの作製や次世代シークエンス技術により,未知のmiRNAをクローニングすることを想定していたが,本年度はこれらのウェット(実験)型手法を用いることなく,候補miRNAを絞り込むことができた。同一個体を経時的にモニタリングするために,今後はこれらの候補miRNAが血清や血漿中でも発現変動するかについて明らかにしていく必要がある。一方,miRNA種は多岐にわたるため,候補となるmiRNAの数をさらに増やし,複数のmiRNAマーカーを用いることでモニタリング精度を向上させることも必要であると考えられた。なお,平成28年度は,3日間の連続給餌により農薬類がある程度魚体内に蓄積した状態で実験を行ったため,バイオマーカー候補となったmiRNAの発現量が農薬類の体内濃度とパラレルに変動するかどうかなどは明らかにできなかった。 今回同定したmiRNAの薬物代謝における制御機構は明らかとはなっていない。薬物代謝における候補miRNAの役割を解明するために,現在,miR-199-1またはmiR-34のターゲットとなる配列に蛍光タンパク質ZsGreen1を連結した共発現コンストラクトを構築中である。
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今後の研究の推進方策 |
エンドスルファン曝露により発現が上昇したmiR-22a-1は,LMG曝露で発現が上昇したmiR-199-1やmiR-34に比べ,それほど大きな発現上昇とはなっておらず、養殖場での実用化を考えた場合,低濃度の曝露を鋭敏に検出できるかどうかが課題となる。そのため,他のmiRNAとの併用も考慮し,新たなmiRNAを探索していく必要がある。平成28年度は,主に薬物代謝酵素や内分泌攪乱化学物質の受容体などをターゲットとしていると推測される6種類のmiRNAに着目したが,平成29年度以降は,薬物代謝酵素や内分泌攪乱化学物質の受容体以外をターゲットとしている既知のmiRNAにも着目するとともに,必要に応じてcDNAライブラリーの作製や次世代シークエンス技術により,未知のmiRNAのクローニングも行う。miRNAのバイオマーカーとしての感度や特異性については,リアルタイムPCRの結果から作成したROC曲線をもとに評価する。 平成28年度では,すでに発現が確認されている肝臓を中心にmiRNA量の定量を行ったが,同一個体を経時的にモニタリングするためには,血清や血漿中でのmiRNAの発現変動も調べる必要がある。血清や血漿中のmiRNA量は,肝臓に比べて少ないことが予想されるため,平成29年度以降では,血清や血漿中の微量miRNAの抽出法や定量法についても検討する。 また,血漿または血清中miRNA量が農薬類の曝露により亢進する理由として,組織または有核赤血球における分泌型miRNAの転写量の上昇や,エキソソームに封入された各組織におけるmiRNAの組織障害による分泌などが考えられる。そこで,Locked Nucleic Acidプローブを用いたWhole mount in situハイブリダイゼーション法により,農薬類の曝露でmiRNAの局在がどのように変わるかを三次元的に明らかにする。
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