東シナ海から日本海西部の海域において底びき網,定置網,灯光利用イカ釣りにより715個体のケンサキイカを採集した。これらの採集方法では,水域と採集時期,採集時間帯,人工光の有無が異なった。漁場(東シナ海南部,北部,玄界灘),水深(50 mを境に深浅),漁法別に空胃率,共食い率を一般化線形モデルによりロジスティック解析を行ったところ,空胃率はすべてのパラメータに対して有意であった。これはケンサキイカが場所や季節ごとに入手しやすい餌生物を捕食する日和見的な食性を示すことを示唆したと考えた。ただし,東シナ海の南北でこの関係は有意では無かった。また,漁法については定置網とその他の漁法で違いが見られた。一方,共食い率は漁法と水深を含むモデルが採用されたが,水深の影響は有意でなく,共食い率は漁法により異なることがわかった。底びき網で共食い率が高い傾向を示したが,これはコッドエンドに集約されたケンサキイカが揚網までの間に同種に噛みついた可能性が高いと考えられる。 胃内容物が見られたケンサキイカ135個体がBLAST解析に供され,そのうち90個体の胃内容物が特定された。胃内には魚類28種,その他の生物5種がみられ,もっとも多く観察されたのはカタクチイワシで全体の22%,次いでケンサキイカ(15%),キビナゴ(11%)の順であった。一方,胃内容物からは水産重要種で高次捕食者でもあるブリやマハタ,クエ,マルソウダ,ヒラソウダ,トラフグのDNAが特定される場合もあった。これらの水産重要種がケンサキイカに捕食されている実態も明らかになったが,その観察数は全体の1割程度であった(90個体中10個体)ことから,これらの水産資源への影響は限定的であると考えられた。
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