1)天然の産卵巣穴における環境条件の把握:羅臼町沿岸域のミズダコの産卵・抱卵海域で環境条件を計測した結果、夏季の平均水温は17℃以下で、常に流速0.1kt以上の流れが発生していた。巣穴内部では、光はほとんど届かず、溶存酸素濃度が低下と回復を繰り返した。巣穴内部の映像から、頑丈な岩で形成された天井が低く奥行きのある閉鎖的な空間であることが確認された。 2)産卵後の雌親の生存期間と水温との関係解明:飼育試験により抱卵中の雌親の体重を定期的に測定した。その体重は、抱卵中では水温にかかわらず緩やかに減少した。卵の孵化後には体重は水温の上昇に伴い大きく減少して、雌親は最終的に死亡した。 3)卵の生残・孵化に及ぼす水温の影響の解明:人工孵化試験の結果、ミズダコ卵は、20℃以上の高水温、2℃以下の低水温では発生が進まず、ミズダコ孵化幼生の生存率は平均水温7℃をピークに高くなるほど下がった。孵化日数は200-320日、積算水温は1700℃・日前後で、孵化後の浮遊幼生の生存率が高くなった。 4)潜在的産卵場の推定と産卵巣穴の探索:宗谷海峡で8月にROVにより産卵巣穴探索調査を行った結果、巣穴にいるミズダコは発見できたが、抱卵個体は確認できなかった。卵の発生に適した水温帯、生存率が高い孵化日数・積算水温、試験調査船の海洋観測データ、等深線から、北海道周辺海域におけるミズダコの潜在的産卵場を推定した。岸近くで産卵できる海域は、道東太平洋、根室海峡であり、水深100mを超えて産卵できる海域は津軽海峡であった。
|