研究課題/領域番号 |
16K07861
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
名古屋 博之 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 増養殖研究所, 主幹研究員 (40372031)
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研究分担者 |
森 司 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (60241379)
正岡 哲治 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 増養殖研究所, 主任研究員 (70372042)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝子組換えアマゴ / 成長ホルモン遺伝子 / エネルギー代謝変化 / 脂肪酸合成抑制 |
研究実績の概要 |
新規GH組換えアマゴの作出のためベクター領域のない挿入遺伝子をマイクロインジェクションした個体のうち、体重上位の168個体の脂鰭からゲノムDNAを抽出し、挿入DNAの有無を調べた結果、導入遺伝子は検出されなかった。これらの個体を引き続き飼育し、受精後1年で成熟した雌雄の親魚を用いて受精させF1を作出した。受精に用いた親魚アマゴの体重はControlのアマゴに対し有意に体重差を示した。受精の結果、13186尾のF1を得た。このうち高成長を示した51尾の稚魚を残し、挿入DNAの有無を調べる。また、未成熟の97尾の飼育を続け、次年度F1を作出する。一方、GH組換えアマゴにおける脂肪酸合成の抑性とエネルギー代謝変化の可能性を調べるため、GH組換えアマゴHomo個体群とControl個体群の肝臓を用いた2群の比較を行った。SDS-PAGE法によりControl個体群とHomo個体群の高分子領域で差を示した250KDa付近と100~150KDaのバンドを切り出し、LC/MSを用いた物質の同定を試みた。Homo個体群で減少したタンパク質同定を行ったところ、250kDa付近で差があるバンドではアセチルCoAカルボキシラーゼで、150KDa付近の差があるバンドはピルビン酸カルボキシラーゼと同定できた。また100kDa付近で差が見られたバンドはα-アクチニンであった。Homo個体群で顕著に減少していたアセチルCoAカルボキシラーゼはパルミチン酸合成の起点であるマロニルCoAを合成することが知られ、脂肪酸合成の調整酵素である。SDS-PAGE法・LC/MS法の結果からHomo個体群ではアセチルCoAカルボキシラーゼが減少して脂肪酸合成が抑制されていることが考えられる。またピルビン酸カルボキシラーゼは糖新生とTCAサイクルに関係する酵素であることから、糖新生とエネルギー代謝の変化が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GH導入組換えアマゴを用いた組織内におけるタンパク質の発現解析は順調に調査が進み、発現の差を示しているタンパク質の同定も行った。今後、これらの発現の差異が成長ホルモン遺伝子を大量に発現していることが原因なのか、挿入された部位によって周辺の遺伝子の発現に影響を与えたものなのかを慎重に調査する必要がある。一方、新規のベクター領域のないGH発現遺伝子を組み込んだ組換えアマゴの作出については、マイクロインジェクションした個体の脂鰭由来のDNAからは挿入遺伝子は検出されなかった。しかし、マイクロインジェクションした個体は導入遺伝子がモザイク状に挿入されるため、すべての細胞に導入遺伝子が入ることはなく、次世代を作出して初めて導入個体が確認されることから、引き続き未成熟の個体の飼育を続け、F1を作出し、高成長を示す個体を用いて導入遺伝子の有無を確認する。また、GH組換え魚の組織における代謝異常等を調べるための既存のGH組換えアマゴの継代は導入遺伝子がホモの状態とヘテロの状態に入った個体を区別して飼育をし、順調に継代されている。
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今後の研究の推進方策 |
GH組換えアマゴで遺伝子発現の差が確認された。この発現の差異は成長ホルモンを大量に発現していることが原因なのか、または外来遺伝子が挿入されたことによって周辺の配列に変異を起こしたことが原因なのか、あるいは既存の我々が維持しているGH組換えアマゴを作出する際にベクター領域も一緒に組み込んだことが原因なのかを調査する必要がある。同じ遺伝子を導入した組換えサケ科魚類を用いて比較することによって、成長ホルモンの過剰発現が及ぼす影響については解決できる可能性があるが、他の2つの影響を解明するためにベクター領域のないプロモーターと成長ホルモン遺伝子だけを導入した個体を作出したい。
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