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2017 年度 実施状況報告書

アワビの褐藻食性を支える新しい糖質代謝系

研究課題

研究課題/領域番号 16K07864
研究機関北海道大学

研究代表者

尾島 孝男  北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (30160865)

研究分担者 井上 晶  北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (70396307)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワードアワビ / アルギン酸 / DEH還元酵素 / KDGアルドラーゼ / 代謝酵素 / アメフラシ / タマキビガイ
研究実績の概要

褐藻を常食とするアワビやアメフラシなどの藻食性腹足類は、藻体のアルギン酸を分解する酵素、すなわちアルギン酸リアーゼを有する。この酵素の作用によりアルギン酸は最終的に不飽和の単糖(α-ケト酸の1種;4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid (DEH))に脱重合される。DEHは、アワビの肝膵臓中でDEH還元酵素HdRedの作用により2-keto-3-deoxy-D-gluconate (KDG)に変換されるが、その後の代謝経路は不明であった。前年度、申請者らはアワビの肝膵臓にはKDGに作用する新規のアルドラーゼ(HdAldと命名)が存在し、その作用によりKDGはグリセルアルデヒド(GA)とピルビン酸(PV)に開裂することを明らかにした。その結果、アワビはアルギン酸分解物を中央代謝系に導入し、完全代謝するための酵素反応経路をもつことが判明した。本年度は、HdAldの作用をさらに詳細に解析した結果、本酵素がDEHにも作用し、これを2-hydroxy-malonealdehydeとPVに開裂するという新しい経路も明らかにした。一方、アワビ以外の腹足類にも上記のアルギン酸代謝経路が存在するかを明らかにするために、アワビとタマキビガイの肝膵臓から粗酵素を抽出しそのDEH還元活性を調べた。その結果、いずれにおいても顕著な活性が認められた。なお、ホタテガイやウバガイなどアルギン酸食性のない軟体動物の粗酵素にはDEH還元活性が認められなかった。一方、アメフラシおよびタマキビガイの粗酵素からDEH還元酵素を部分精製し、それらについてペプチドマスフィンガープリンティングを行った結果、いずれもHdRedと高い類似性をもつことが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成29年度の研究計画は、アワビのKDGアルドラーゼHdAldのより詳細な性状解析を行なうと共に、アワビ以外の腹足類にもDEH還元酵素から始まるアルギン酸代謝酵素系が存在するかを調べることであった。この計画に沿って研究を進めた結果、以下の通り順調に研究成果を得ることができた。①HdAldの作用特性を調べた結果、非常に興味深いことにこの酵素はKDGだけでなくDEHにも作用し、これを2-hydroxy-malonedialdehyde(2HMD)とピルビン酸に開裂することを明らかにした。2HMDは自然界には極めて稀な化合物であり、様々な薬物のリード化合物としての利用も期待できる。このことは、HdAldが新規化合物の作出用酵素として有用であることを示している。②アワビにおけるアルギン酸分解によって生じたDEHは、KDGに還元された後、アルドラーゼの作用によりグリセルアルデヒドとピルビン酸に分解される酵素系の存在を明らかにし、それによりアルギン酸の完全代謝経路を解明できた。②アワビ以外の藻食性腹足類におけるDEH還元酵素を探索し、アメフラシとタマキビガイからHdRedと類似の酵素の存在を確認した。また、アルギン酸代謝能を持たないホタテガイやウバガイにはDEH還元酵素活性が見られないことから、DEH代謝系はアルギン酸リアーゼの存在と密接に関連することを明らかにした。以上の研究成果は、前年度の計画通りあるいはやや上回っている。

今後の研究の推進方策

平成29年度には、アワビのアルギン酸完全代謝系を解明できたので、平成30年度(最終年度)はこの代謝系が藻食性腹足類あるいはアルギン酸食性をもつ生物に共通して存在することを確認する。具体的には、アルギン酸リアーゼをもつアメフラシとタマキビガイのDEH還元酵素とKDGアルドラーゼの存在の確認と性状解析、特にアメフラシについてはcDNAクローニングを行い、全一次構造を明らかにするとともに、組換え酵素を用いた機能解析を行なう。また、藻食性腹足類に限らず、できるだけ多くの軟体動物や節足動物、棘皮動物などの無脊椎動物を試料とし、DEH還元酵素あるいはKDGアルドラーゼが系統学的にどのように分布しているのかを明らかにする。それにより、アワビのアルギン酸代謝系がどのような生物進化の過程で獲得されてきたのかを考察する。

次年度使用額が生じた理由

当該年度の研究は順調に進展し概ね当初目的を達成できたが、一部次年度も継続して進める課題もあるため、年度末残額の9634円を無理に使用せず、次年度使用とした。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2017

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Structure and polymannuronate specificity of a eukaryotic member of the polysaccharide lyase family 142017

    • 著者名/発表者名
      H-M. Qin, T. Miyakawa, A. Inoue, R. Nishiyama, A. Nakamura, A. Asano, Y. Sawano, T. Ojima, M. Tanokura
    • 雑誌名

      J. Biol. Chem.

      巻: 292 ページ: 2182-2190

    • DOI

      10.1074/jbc.M116.749929

    • 査読あり
  • [学会発表] エゾアワビにおけるアルギン酸由来α-ケト酸の代謝機構2017

    • 著者名/発表者名
      西山竜士・井上晶・尾島孝男
    • 学会等名
      マリンバイオテクノロジー学会(東北大学青葉台キャンパス)

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公開日: 2018-12-17  

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