研究課題
アワビ類は摂餌した褐藻に含まれるアルギン酸を、胃液中のアルギン酸リアーゼにより不飽和の単糖(4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid; DEH)に分解できるが、このDEHがどのような酵素作用あるいは代謝経路によりアワビの炭素・エネルギー源として利用されるのかは不明であった。先に申請者らは、このDEHに作用する酵素の存在を探索し、アワビの肝膵臓抽出液中にNADPH存在下で還元する酵素DEH還元酵素HdRedが存在することを明らかにした。HdRedは、DEHから還元反応により2-keto-3-deoxy-D-gluconate (KDG)を合成したが、このKDGはどのような作用によりピルビン酸に代謝されるかを次に研究した。そのために、アワビの肝膵臓で発現している遺伝子についてトランスクリプトーム解析を行い、そこにKDGに作用する可能性のある遺伝子を探索した。その結果、KDGを直接グリセルアルデヒド(GA)とピルビン酸(PA)に開裂するアルドラーゼ様の遺伝子(HdAldと命名)の存在を確認した。興味深いことに、HdAldは古細菌にみられる糖質アルドラーゼと30%程度と低いながらも相同性を示した。そこでこのHdAldの全長cDNAをクローニングし、組換え酵素として大腸菌発現系により生産した。この酵素recHdAldをKDGに作用させると、実際にGAとPAに開裂することを確認した。この研究成果により、アワビでは摂餌した褐藻のアルギン酸は、アルギン酸リアーゼによりDEHに分解され、このDEHは肝膵臓中で、HdRedによりKDGに還元された後、HdAldによりGAとPAに分解され、最終的にTCA回路により代謝されるという新規の代謝経路の存在を示すことができた。これらの酵素は、タマキビガイやアメルフラシなどの腹足類にも存在することも確認した。
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Methods in Enzymology
巻: 605 ページ: 457-497
10.1016/bs.mie.2018.01.032