研究課題/領域番号 |
16K07866
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 計介 東北大学, 農学研究科, 准教授 (80240662)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海産二枚貝 / マガキ / マイクロバイオーム / 体内細菌叢 / 環境ストレス / 低酸素 / 高水温 / 血リンパ |
研究実績の概要 |
マイクロバイオームは一種の微生物生態系として、免疫応答など宿主の基本的な生理機能を助ける重要なものとして知られる。本研究は、これまでほとんど明らかにされていない、海産二枚貝マガキの血リンパに形成されるマイクロバイオームについて、以下のことを目的とする。 1)健常個体のマイクロバイオームについて、組成や菌数を季節ごとに明らかにする。2)マイクロバイオームと宿主の相互制御のしくみとして、生体防御能との関連を明らかにする。3)環境ストレスや病原菌の感染が、マイクロバイオームの組成や菌数に与える影響を知る。4)3)でのマイクロバイオームの変化が、宿主の生理機能に与える影響を評価する。 本年度は、特に1)の健常個体の持つマイクロバイオームを知ることと、3)の環境ストレスを人為的に与えて、マイクロバイオームの組成や数が変化することを調べた。その結果として、最初に、垂下養殖下で成育中のマガキ細菌叢を把握することができた。また、Marine agar 2216E培地上で観察されたコロニーについては、16S rRNA配列に基づく属レベルでの同定を行った。環境ストレス負荷実験では、マガキ細菌叢の変動を捉えることができた。水温25℃で保持された場合、両試料ともMarine agar 2216Eで培養可能な生菌数は開始24時間後に大きく増加し、72時間後には保持開始前の水準にまで減少するという傾向を示した。しかし、水温25℃で溶存酸素量を2.1 mg/Lと低下させた区では、72時間後の生菌数は24時間後よりもさらに増加した。さらに、メタゲノム解析の結果から、低溶存酸素量区では細菌種の多様性が大きく減少していることが示された。これらのことから、マガキ血リンパの細菌叢に対する影響は、水温のみでは定常状態を損なうほどではないが、低溶存酸素量が加わることにより著しい変化を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで研究例が少ない海産二枚貝のマイクロバイオームについて、新しい知見を得ることができたからである。重要なものとしては、本研究の実施により、マガキを人為的な環境ストレスに晒した際の細菌叢の変化を見る、という面で先進的なな結果が得られた。さらに、ストレスの負荷がかかり衰弱した個体では、メタゲノム解析により多様性の減少が示され、また、培養法により生菌数の増加が示された一方で、培養可能な菌に限定すると多様性の減少は認められないということを明らかにした。加えて、環境ストレスを2種類用いたことから判断すると、単一の環境ストレスのみでは、ストレスの負荷により細菌叢に変化が生じ、その条件下に適応した細菌グループが独占するようになるものの、変化した細菌叢は、元の通常範囲内の細菌叢へ戻ろうとする傾向が示され、結果的にマガキの健康へは大きな影響はなかったと考えられること、しかし複数のストレス負荷により、細菌叢は深刻な損傷を受け、元の通常範囲内の細菌叢へ戻ることが不可能になったことで、細菌叢および宿主であるマガキに悪影響を与え、結果的に多くの死亡個体が現れることを、水槽実験ながら明らかにしたことである。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでいるので、研究計画の変更等は考えていない。今後の進め方としては、 1)本年度は血リンパを対象としたが、健康にとってさらに重要であると考えられる消化管(消化盲嚢および中腸)のマイクロバイオームを対象として、環境ストレス負荷実験を行う。 2)ストレス実験区の個体が、実際にどの程度ストレスを受けているのかを、ストレスタンパク(HSP70や90)の遺伝子発現解析、さらに生体防御タンパクの活性などを調べることにより、明らかにする。そして、これらの結果とマイクロバイオームの組成変化や現存量の変化との関連性を明らかにする。 このような取り組みを進めていく。
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