研究課題/領域番号 |
16K07866
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 計介 東北大学, 農学研究科, 准教授 (80240662)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海産二枚貝 / マガキ / マイクロバイオーム / 血球 / 血リンパ / 貪食 / レクチン / C1q-like protein4 |
研究実績の概要 |
マイクロバイオームは一種の微生物生態系として、免疫応答など宿主の基本的な生理機能を助ける重要なものとして知られる。本研究は、これまでほとんど明らかにされていない、海産二枚貝マガキの血リンパに形成されるマイクロバイオームについて、本年度は以下の2項目を知ることを目的とする。 1)マイクロバイオームと宿主の相互制御のしくみとして、生体防御能との関連を明らかにする。すなわち、宿主の生体防御機構で中心的な役割を担い、血リンパに存在する血球の細菌に対する殺菌能や貪食能を調べ、マイクロバイオームの制御要因になり得るかを明らかにする。 2)マイクロバイオームと宿主の相互制御のしくみとして、血リンパに存在するタンパク性の殺菌因子や凝集因子がマイクロバイオームの組成や菌数に与える影響を評価する。 本研究では、マガキ血球に無顆粒球と顆粒球の2つの細胞亜集団を認めた。無顆粒球と顆粒球とに分けて貪食能を測定した結果、無顆粒球の貪食率は15.3%と低かったのに対し、顆粒球では70%の血球が酵母に対して貪食能を有していた。顆粒球には2つのタイプの細胞が観察されたが、どちらのタイプの細胞も異物をよく貪食し、貪食像に大きな違いは認められなかった。また、貪食指数も無顆粒球の値を大きく上回っていた。これらのことから、顆粒球は主として異物排除に働く細胞で構成されていることが示唆された。 マガキ血リンパに存在する凝集タンパクのレクチンのうち、カルシウム依存的にウマ赤血球を凝集する成分(Gigalin-E)が補体成分に類似したC1q-like protein 4 isoform X1であることを特定した。gigalin-EがE.coliを凝集したことから、gigalin-Eは、細菌を凝集するレクチンとして生体防御に関与している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題に関連して2つの大きな知見を得ることができたからである。血リンパの中には血球という防御担当細胞とレクチンのような細菌に対してその増殖を抑制するタンパク質が存在し、マガキが健全な状態であれば、これらが機能して血リンパ中の細菌叢の種類や生菌数を一定のレベルに制御していることが明らかとなってきた。すなわち、裏を返せば、強い環境ストレスなどによってマガキの体調が悪くなった場合、防御機能も低下して細菌叢のバランスが崩れることが予想される。正常値と大きく異なる種類や生菌数を検出すれば、そのカキは何らかに変調をきたしていることが把握できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に行われているので、計画の変更は考えていない。今後は条件を変えた飼育実験により、細菌叢の変化の仕方を把握する。例えば、高水温・低水温などの温度条件の変更や酸素濃度の変化、病原体によるマガキの体調の変化に伴う細菌叢を明らかにすることである。単に数の違いを把握するだけでなく、ストレスの種類によるパターンの違いも明らかにしたい。
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