研究課題/領域番号 |
16K07870
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
石田 真巳 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (80223006)
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研究分担者 |
岡井 公彦 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (00596562)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 好圧性 / リパーゼ / 構造と性質 / 高効率発現 / 結晶構造解析 / 未知遺伝子 |
研究実績の概要 |
平成29年度の主目的であるMoritella sp. F1由来Lip-IIの結晶化に必要な組換え体による高効率生産を実施した。発現ベクターをpET28aに交換した結果、大腸菌内でLip-II(80kDaバンド)の不溶性沈殿が大量に生産された。天然酵素と同じ可溶化酵素を得るため、培養温度を順に11℃まで下げてフォールディング改善を試みた。結果、15℃以下で大部分が可溶性画分に移ったが、リパーゼ活性は得られなかった。そこでMoritella marina全ゲノム配列上のリパーゼII相当遺伝子周辺を調べ、分子シャペロンpeptidyl-prolyl isomerase (PPI)遺伝子を発見した。Lip-II遺伝子と大腸菌PPI遺伝子の共発現系を15℃培養した結果、80kDaバンドと共に弱い活性が得られた。そこで活性測定時に種々2価カチオンを添加した結果、Znイオンで活性が20倍上昇した。以上で目的の高効率生産系ができた。 次の目的であるMoritella sp. F3由来リパーゼII遺伝子の一次構造解析は、F1由来Lip-II遺伝子や周辺領域を基に作成した種々プライマーでのPCR増幅は成功しなかった。そこで次世代シーケンサを用いてF3株の全ゲノム配列解析を実施した。結果、十分なcontigになるデータが得られたので、現在、目的遺伝子を探索中である。 その他、F1が生産するリパーゼが天然基質トリグリセリドも分解するかトリオレイン等の分解を中和滴定で確認し、好圧性も確認した。また、Lip-IとLip-II遺伝子がMoritella属のみならずVibrio属など他属にも広範に遺伝子対として存在することを発見した。更に、Moritella sp. F1・F3と同様の中深層由来の低温菌Vibrio sp. Pr21のPRプロテアーゼの圧力特性を調べ、これにも好圧性があることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最重要目的はF1株のリパーゼII(Lip-II)の立体構造を明らかにすることである。それによって二つの大きな目標、即ち、1)好圧性をもたらす構造の特徴を解明すること、2)塩基配列上は未知遺伝子であるLip-IIとリパーゼI(Lip-I)が新種のリパーゼであることを明らかにすること、を目指す。 平成29年度は、この立体構造解析に必須の高効率発現を達成することができたので非常に大きく前進した。また、目的1)を達成するために、F1由来の好圧性Lip-IIとF3由来の非好圧性Lip-IIのアミノ酸配列の違いを比較する必要がある。F3由来Lip-IIのアミノ酸配列を解明するために、F3株ゲノムの全塩基配列を次世代シーケンサで分析した。これはF3由来Lip-IIのアミノ酸配列解明に向けて大きく前進したことを意味している。 これらの大きな進歩に加えて、平成29年度の新知見として、F1株の酵素に天然基質トリグリセリドの分解活性があったことは、酵素的にはこれらの酵素がリパーゼと呼べる分子であることを示している。また、Lip-I・Lip-II遺伝子対が予想以上に広範な微生物に分布していたことは、一次構造上は未知遺伝子だがこれらの酵素が広範な微生物にとって重要な機能を有する可能性を示している。そして、F1株・F3株と同様な中深層域のVibrio sp. Pr21由来PRプロテアーゼも好圧性を有していたことは、F1株・F3株の特徴的な好圧性は中深層に生息する微生物の特徴の可能性がある、という解釈につながる。これらは目標1)・2)を補助する新知見である。 以上のように、平成29年度は最終目的に向けて大きく前進した。しかし、高効率発現に続く立体構造解析が現在、進行中で未だ成果が出ていないため、全体の進捗状況は(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、本研究課題の主目的であるF1由来Lip-IIの立体構造解析を計画通りに進める。平成29年度にF1由来Lip-IIが高効率生産できたことを受けて、平成30年度は結晶化と結晶構造解析を実施し、立体構造を解明する。また、組換え体由来のF1-Lip-IIに天然酵素と同様の好圧性があるかも確認する。 一方、F1由来Lip-IIの対照たる非好圧性のF3由来Lip-IIの遺伝子の全塩基配列を決定する。既に全ゲノム配列解析実験を終えているので、相同性などを手掛かりにF3由来Lip-IIの塩基配列を決め、大腸菌宿主への遺伝子クローニングも行う。F1-Lip-IIとF3-Lip-IIの間で異なるアミノ酸残基を調べ、立体構造解析が進めば立体構造データを参考にして、部位指定変異法を用いて、好圧性と非好圧性に影響のあるアミノ酸部位を分析する。 F1由来Lip-Iについては、何故Lip-IとLip-IIが遺伝子対として広く分布しているのか、二種の酵素の生理機能の連携を調べる。そのために、F1-Lip-I遺伝子をクローニングして高効率生産し、F1-Lip-IとF1-Lip-IIをin vitroで混合し、各酵素単独の酵素的性質や圧力特性などが混合によって変化するか分析する。また、立体構造解析も目指す。 中深層細菌由来の好圧性PRプロテアーゼについては、海洋表層に生育するVibrio種の同種酵素(アミノ酸配列類似性の高い酵素)と圧力特性の比較を行う。表層のVibrioから非好圧性酵素が得られたら、両者を比較して好圧性に影響するアミノ酸部位を分析する。 以上の内容を総括して、中深層のMoritella sp. F1とF3由来の新奇リパーゼLip-I・Lip-IIを中心とする好圧性酵素の構造と性質の相関、および、これらリパーゼの生理的意義や水圧等の環境との関係をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題が目指す好圧性酵素の立体構造解析を達成するために、当初計画では、平成28年度に遺伝子高効率発現を達成し、平成29年度に結晶化と結晶回折解析を実施する計画だった。しかし、遺伝子高効率発現が遅れて平成29年度に達成された。そのため、結晶化以降は平成30年度に実施することにした。これに合わせて、結晶化以降の経費を平成29年度には使用せずに平成30年度に持ち越し、当初の平成30年度分として請求した助成金と合わせて使用することとした。
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