最終の2019年度は、主目的として、海洋中層由来Moritella sp. F1株リパーゼLip-Iの高効率生産を実施した。前年度に解析したMoritella sp. F1株、F3株の全ゲノム配列をデータベースに登録した。遺伝子解析の結果、Lip-IIだけでなくLip-Iも未知のリパーゼで立体構造解析の意義が明確になった。組換え大腸菌による高効率生産条件を追求し、結晶解析に十分なLip-Iの生産に成功した。 F1株とF3株のLip-IIの好圧性に影響する補助因子の可能性が示されたが、2019年度は、両株の培養液に実際にバイオサーファクタントの存在を確認することができた。 もう一つの目的として、海洋中層由来Vibrio sp. Pr21株のPRプロテアーゼと変異酵素Q301Pの構造と圧力特性の解析を実施した。PRプロテアーゼと、遺伝子ランダム変異で作出した比活性が3倍に上昇した変異酵素Q301P(Gln301→Pro変異)の圧力特性を比較した。常圧でも高圧でも変異酵素の方が比活性が高かった。変異によって活性中心を含むβシートを支える水素結合が欠失し、βシートの柔軟性が上がり、比活性が上がると推測した。この結果を学術雑誌に投稿し、受理された。 本研究課題全体から、海洋中層細菌の酵素が低温・高圧に適応する有用資源であることを示した。本研究課題の目的の一つであるMoritellaリパーゼLip-I、Lip-IIが従来のリパーゼ分類群と異なる新規リパーゼであることを明らかにした。両リパーゼ遺伝子はゲノム上で遺伝子対として存在し、広範な海洋細菌ゲノムに類似遺伝子対がみつかり、両酵素が連携する未知機能の可能性が示された。もう一つの目的である好圧性の機構解析は、Lip-IIの生産効率が不十分のためにできなかったが、PRプロテアーゼで、二次構造を支える水素結合と圧力特性の関係を解析できた。
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