研究課題
ゼブラフィッシュ飼育システムでの予期せぬ魚病発生のため、平成28年度に作出したゼブラフィッシュ宿主キメラおよびゼブラフィッシュ・パールダニオ系統を失ってしまった。それらキメラからは十分なデータを得ることができなかった。現在は、飼育条件を見直すとともに、新規に飼育要員を採用し、再セットアップを行っている。一方、今年度まですでに、「異種間チョウザメ類生殖系列キメラ」および「コイ生殖細胞を移植したキンギョ生殖系列キメラ」も作出していたため、それが成熟すれば配偶子の各種測定を行える予定ではあったものの、残念ながら今年度はそれらキメラからの配偶子は得ることができなかった。したがって、研究実施計画に記載していた実験を計画通りに進めることはできなかった。とはいえ、キメラ作出実験等を通して「代理親効果」につながる新しい知見も得られたので、今年度はそれを成果として報告する。dead end遺伝子に対するモルフォリノオリゴヌクレオチドを顕微注入し、不妊化したゼブラフィッシュ宿主への、パールダニオ生殖細胞の移植を行った。移植実験条件は1)胞胚期への始原生殖細胞(PGCs)の移植、および2)孵化仔魚への精原細胞の移植、を行った。コントロールとしては、同条件でゼブラフィッシュ→ゼブラフィッシュ生殖系列キメラを作出した。その結果、1)の条件では、生殖腺にPGCsの定着が確認された個体のうち、およそ9割の個体が妊性を回復しドナー由来の配偶子を生産したものの、2)の条件で作出したキメラではおよそ1割の個体しか妊性を回復しなかった。コントロールではどちらの条件でも9割以上の妊性の回復が確認された。これらの結果は、移植するドナー生殖細胞のステージ、あるいは宿主の発生段階によって種間のミスマッチが増加する可能性を示唆している。
3: やや遅れている
飼育室での予期せぬ魚病の発生による、作出した生殖系列キメラおよびゼブラフィッシュ、パールダニオ系統の喪失により、ゼブラフィッシュ宿主生殖系列キメラからの配偶子採取計画に遅れが生じている。他の魚種でも異魚種間生殖系列キメラを作出しているものの、実験モデル魚種よりも配偶子生産に達するまでに長時間を要するため、予定していた研究を完遂することはできなかった。
出来るかぎり早く飼育システムを復旧するとともに、生殖系列キメラの作出を急ぐ。十分な生殖系列キメラが得られたら、以下の実験を速やかに行う。コントロール魚およびキメラより配偶子を採取し、配偶子の定量的形質を比較する。卵はコントロール同士、あるいはキメラ同士の自然交配により得る。1)卵:それぞれドナーおよびキメラより、腹部圧搾により未受精卵を採取する。サイズ、組織学的形態および栄養成分の測定を行う。サイズは実体顕微鏡で撮影後、ソフトウェア上で測定する。その後、適切な固定液で固定した後、樹脂切片を作成し、卵膜の厚さ、卵黄膜の厚さ、卵黄顆粒の量と形状などを詳細に観察する。2)精子:それぞれドナーおよびキメラより、腹部圧搾によって精液を採取する。グルタルアルデヒド等で固定後、走査電子顕微鏡で頭部長、基部長、鞭毛部長などを計測する。フレッシュな精子に関しては、精子解析システム(CASA)で運動精子数、不動精子数、精子濃度、直線速度、曲線速度、頭部振幅、頭部振動数、運動継続時間などを測定し、ドナーとキメラそれぞれの精子を比較する。3)胚:コントロールおよびキメラから自然交配により受精卵を得る。それぞれ受精率・発生率を求め、卵サイズが異なる場合については初期の成長率や形態的特徴を解析する。たとえば、孵化胚の体節数の違いをxirp2遺伝子の発現パターンをWhole mount in situ hybridization法によって解析する。また、「代理親効果」によって卵黄サイズが変われば、摂餌開始期にも変化が生じることが予想される。このようなわずかな違いを詳細な解析と統計的手法を用いてあぶり出す。4)DNAの特定領域についてメチル化パターンを比較する。
実験計画の遅れにより、予定していた解析の一部を行うことができなかったため。実験体制が整い次第、必要な解析に必要な研究資材を購入する。
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Theriogenology
巻: 108 ページ: 239~244
10.1016/j.theriogenology.2017.12.013
巻: 104 ページ: 94~104
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