本年度は、代理親効果を実証するため、胚の発生率が極めて低く脆弱な系統として知られているゼブラフィッシュ系統(Casper)をドナーとし、野生型(AB系統)胚へ始原生殖細胞(PGCs)を割球移植法により移植することにより「生殖系列キメラ」を作出した。移植にあたっては、野生型ゼブラフィッシュ宿主胚に、Dnd遺伝子に対するモルフォリノオリゴを顕微注入することにより不妊化処理を施した。通常飼育でのcasper系統の親魚までの生残率はおよそ5%と極めて低かったが、キメラ化することにより、Casper生殖細胞をもつ生殖系列キメラのうちおよそ70%を生残させることが可能であった。これらの生殖系列キメラは正常に成熟し配偶子形成を行い、交配実験より、casper系統の配偶子のみを生産していることが確認された。キメラ同士の交配により、生殖系列キメラを経由したcasper個体の作出が可能であった。極めて興味深いことに、生殖系列キメラを経由したcasper系統の生残率は32%であった。また、通常casper系統よりも卵膜が強固で、排精量が多く、CASA解析により運動精子率が高いことが明らかとなった。以上のことから、本申請の目的であった「配偶子への代理親効果を評価するための精密なキメラ作出実験系」を確立した上で、これまで全く知られていなかった「配偶子への代理親効果」を明らかにすることができた。これらの結果は論文としてまとめ投稿準備中である。 加えて、本知見を他魚種に応用すべく、チョウザメおよび海産魚をモデルとし、効率的に生殖系列キメラを作出するための新規移植法を開発した。新規移植法を用いることで、これまで報告されたどの方法よりも高い効率でドナー細胞を宿主胚に導入することが可能であることが明らかとなった。現在、本手法を用いた海産魚生殖系列キメラを飼育中であり、今後代理親効果の検証を行う予定である。
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