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2016 年度 実施状況報告書

ゲノム編集技術を用いた魚類リソソームシアリダーゼの機能解析

研究課題

研究課題/領域番号 16K07876
研究機関鹿児島大学

研究代表者

塩崎 一弘  鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (70390896)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワードシアル酸 / 糖鎖 / メダカ / シアリダーゼ / モデル動物
研究実績の概要

リソソームは細胞内にて異化分解を行うオルガネラであり、近年ではオートファジーの最終到達地点としてその機能が注目されている。哺乳類ではNeu1シアリダーゼが種々の疾病(シアリドーシスや癌)、神経細胞の分化、免疫などに関与していることが分かってきたが、魚類においてはその機能については全く報告が得られていない。哺乳類Neu1の機能から魚類においても発生や分化、感染などにNeu1が関与していることが強く予想されている。そこで本研究では、魚類リソソームにおけるNeu1シアリダーゼの機能を明らかにするため、ゲノム編集技術によるNeu1ノックアウトメダカを作製し解析を行うことを目的とした。
メダカゲノム情報を元にsgRNA配列を数種類設計し、メダカ受精卵へのマイクロインジェクションを行った。その結果、孵化率の著しい低下が認められたため、Neu1の胚発生への影響が示唆された。そこでNeu1ゲノムには影響を与えず、一過性のタンパク質翻訳阻害が可能であるモルフォリノオリゴを用い、メダカ受精卵へのマイクロインジェクションを行った。Neu1-MOはNeu1ノックダウンと同様にメダカ孵化率の低下を引き起こし、胚の吸収阻害や心拍数の上昇などの表現型が確認された。そこで糖タンパクの組成を解析したところ、Neu1-MOメダカにおいて卵黄タンパク質由来と思われるシアロ糖タンパク質の異常蓄積が認められた。この結果から、Neu1は胚発生に重要な因子であることが明らかとなり、養殖業においてNeu1遺伝子の発現が種々のバイオマーカーとしての応用が期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Neu1遺伝子をノックアウトするためのsgRNAの設計は、メダカゲノムブラウザーを用いて行った。開始コドン周辺のPAM配列を数種類選び出し、標的配列を含むオリゴDNAをDR274プラスミドにサブクローニング後、in vitro転写システムによりsgRNAを合成した。その切断効率を確認するため、標的配列を含むゲノム領域をPCRにより増幅し、rCas9/sgRNAと反応させた。その結果、いくつかのrCas9/sgRNAでin vitroでのDNA切断が認められた。
そこでこのsgRNAとCas9 mRNAを1細胞期のメダカ受精卵にマイクロインジェクションして、ノックダウンメダカの作製を試みた。ところが、このsgRNAをインジェクションした個体では発生が途中で停止するものが多く、孵化率が著しく低下した。ヒトNEU1遺伝子の欠損症は重篤な発生異常を示すことから、魚類Neu1の遺伝子ノックアウトはこれと同様に発生に影響していることが強く示唆された。
そこでNeu1タンパク質翻訳を阻害するモルフォリノオリゴ(MO)を設計し、メダカ受精卵へのマイクロインジェクションを行った。これはMOによる翻訳阻害は一時的であり、ゲノム配列には影響を与えないことから、Neu1ノックダウンによる機能解析が有効であると考えたからである。Neu1-MOメダカでは対照MOと比べて胚のサイズが小さく、卵黄の大きさが有意に大きく観察された。またNeu1-MOでは孵化率の低下や心拍数の上昇が認められ、胚発生に異常があることが明らかとなった。そこでシアロ糖タンパクの組成についてレクチンブロットで解析したところ、α2-3シアル酸結合を持つ糖タンパク質がNeu1-MOで異常蓄積することが明らかとなった。この結果から、Neu1が卵黄タンパクの分解を通じて胚発生に重要な因子であることがin vivoで明らかとなった。

今後の研究の推進方策

平成28年度の研究成果により、魚類Neu1シアリダーゼが胚発生に重要な因子であることが明らかとなった一方で、Neu1遺伝子を完全にノックアウトしてしまうと孵化率が低下し、KOメダカの作出が難しいことが予想された。そこで平成29年度では、Neu1の遺伝子を完全に破壊するのではなく、Neu1の酵素活性が一部低下したメダカを作出することを目的として、引き続きsgRNAによるゲノム編集を行う。魚類Neu1の点変異によるシアリダーゼ活性低下については全く報告が無いが、魚類Neu1の機能はヒトNEU1と高度に保存されていることが我々の先の研究で明らかになっているため(Ryuzono et al., 2016 Gene)、ヒトシアリドーシスにて報告されているNEU1の点変異を参考にしてsgRNAの設計を行う。また魚類Neu1の活性化に重要であるCathepsin Aのノックアウトについても検討する。これはNeu1シアリダーゼのリソソーム局在と安定化にはCathepsin Aが必要であり、ヒトにおいてCathepsin A不全がシアリダーゼ活性の低下を生じさせることが報告されているからである。これらの方法により作成したNeu1遺伝子改変メダカを用いて、バクテリア感染や成長における魚類Neu1の機能について解析を行う。また、このsgRNAを用いて培養細胞を同様にゲノム編集できることが期待できるため、in vitroにおけるNeu1の機能解析についても同様に行う。必要の応じて、Neu1と同様にリソソームに局在することが予想されるメダカNeu4についても、遺伝子ノックアウトもしくはモルフォリノオリゴによる遺伝子改変を検討する予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Suppression of Neu1 sialidase delays the absorption of yolk sac in medaka (Oryzias latipes) accompanied with the accumulation of alpha 2-3 sialo-glycoproteins2017

    • 著者名/発表者名
      Ryuzono, S., Takase, R., Kamada, Y., Ikenaga, T., Chigwechokha, P., Komatsu, M., Shiozaki. K.,
    • 雑誌名

      Biochimie

      巻: 135 ページ: 63-71

    • DOI

      10.1016/j.biochi.2017.01.008.

    • 査読あり / 国際共著 / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Naringenin suppresses Edwardsiella tarda infection in GAKS cells by NanA sialidase inhibition.2017

    • 著者名/発表者名
      Shinyoshi, S., Kamada, Y., Matsusaki, K., Chigwechokha, P., Tepparin, S., Araki, K., Komatsu, M., Shiozaki, K
    • 雑誌名

      Fish Shellfish Immunol

      巻: 61 ページ: 86-92

    • DOI

      10.1016/j.fsi.2016.12.018

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 脊椎動物モデルへの応用を目指した魚類オートファジー・リソソーム分解系における脱シアリル化機構の解明2016

    • 著者名/発表者名
      高瀬 諒、本田晃伸、小松正治、塩﨑一弘
    • 学会等名
      第39回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      横浜アリーナ(神奈川県横浜市)
    • 年月日
      2016-12-02 – 2016-12-02
  • [学会発表] 胚発生におけるリソソームシアリダーゼNeu1、Neu4の重要性2016

    • 著者名/発表者名
      塩崎一弘、龍薗せな、高瀬 諒、鎌田裕子、大石一樹、宮崎未奈、小松正治、池永隆徳
    • 学会等名
      平成28年度日本水産学会秋季大会
    • 発表場所
      近畿大学農学部(奈良県奈良市)
    • 年月日
      2016-09-08 – 2016-09-11

URL: 

公開日: 2018-01-16  

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