研究課題
昨年度に引き続いて、本年度もCRISPR/Cas9ゲノム編集システムを利用したNeu1遺伝子ノックアウト動物の作成を行った。これまではダツ科の小型魚であるヒメダカを用いてNeu1遺伝子のノックアウトを行っていたが、メダカは産卵数が少なく1細胞期の原形質が非常に小さいことから、インジェクション後の生残率が低下しており、変異導入率が低くなる問題があった。ノックアウト系統を確立するためには、F0ファウンダーの生殖細胞が高頻度で変異を持つことが重要であることから、産卵数が多く原形質のサイズが大きいゼブラフィッシュでNeu1ノックアウト動物を作成することに変更した。まずゼブラフィッシュNeu1の酵素学的性状が不明であったことから、遺伝子のクローニングおよび組換えタンパク質の解析を行ったところ、その性状はヒトとよく保存されていた。オフターゲットを示さないgRNAを設計し、rCas9タンパク質と共にゼブラフィッシュ胚にインジェクションを行ったところ、メダカ使用時と比較して高確率でモザイク状のF0ファウンダーが作成できた。さらにこのF0ファウンダー同士を掛け合わせ、Neu1ノックアウトゼブラフィッシュの作出に成功した。そこでこのノックアウトゼブラフィッシュの解析を行ったところ、頭部や内臓形成に異常が認められ、ヒトシアリドーシスと同様の表現型が得られることが分かった。さらに心臓の脈動にも異常が認められ、これはNeu1ノックダウンメダカの報告と同様であった。さらにNeu1ノックアウトゼブラフィッシュの動脈球の変形が認められたことから、エラスチン‐Neu1複合体の形成異常が関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は本課題のカギとなるNeu1ノックアウト小型魚類の作出に成功した。当初はメダカを用いて作成する予定であったが、変異導入効率の低さからゼブラフィッシュに使用動物を変更したところ、F0ファウンダーで既に表現型の変化がみられるほどの高い変異導入効率を示す条件を見つけることができた。さらにF1世代ではその表現型はかなり明確であり、ヒトシアリドーシスと同様の症状を示すだけでなく、これまで明らかではなかった内臓の微細な異常までも見出された。その一方で、このノックアウト個体の多くは性成熟する前に死亡することが推察され、バクテリア感染や環境変化への適応について評価することが難しいことが分かってきた。そこでこのノックアウトゼブラフィッシュに関しては胚発生に注目し、魚類での初期発生における脱シアリル化の意義を明らかにすることに焦点を絞って解析を進めるのが適切であると考えられる。以上の理由より進捗状況をおおむね順調に進展していると判断した。
変異が認められたNeu1ノックアウトゼブラフィッシュであるが、F0ファウンダーの交配によるF1のため、両アレルのNeu1変異の型が異なっている。本報告で示した表現型の変化が非特異的なものでないことを証明するため、両アレルが同じNeu1変異を持つF2世代の作出を行い、その表現型について解析を行う。さらにその表現型の変化について、どのような分子が関与しているのかを明らかにすることを目的とし、組織学的解析および分子生物学的解析を行う。今回作成に成功したノックアウトゼブラフィッシュはNeu1を完全に欠損しているため、性成熟の前に死んでしまうことが予想される。そこでNeu1の活性をわずかに維持する変異を持つNeu1変異体を作出し、ノックインによるNeu1ノックインゼブラフィッシュを用いた解析を行う。この変異体はヒトⅠ型シアリドーシス患者の報告から、性成熟まで進むことができると考えられ、成熟や寿命、バクテリア感染や情動行動の変化まで幅広い解析が可能になると期待できる。本申請課題の研究成果は、魚類のリソソーム脱シアリル化の生理的意義だけでなく、ヒトI型およびII型シアリドーシスの発症や対処法の開発にもつながると考えられ、この2つの目的について成果をまとめていく。
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