研究課題/領域番号 |
16K07881
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
森友 忠昭 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20239677)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 魚類 / ヘルパーT細胞 / IL-2 |
研究実績の概要 |
魚類でも,ヘルパーT細胞(Th)は獲得免疫の司令塔として働くと考えられているが,Th1やTh2などのTh亜集団の存在は明らかになっていない.申請者はすでに,1個のコイTh細胞からクローン化Th細胞株を樹立することに成功しており,これらTh細胞株の性状を調べることで,魚類のTh亜集団の性状を調べた.しかし,これらコイTh細胞株は,哺乳類のTh1やTh2に特徴的なサイトカインや転写因子の発現は比較的弱く,ナイーブヘルパーT細胞様の性状を示すものが多かった.そこで28年度は,抗原特異的なT細胞を出発材料として培養下での増幅を試みた.すなわち,1尾のコイ(Responder)をあらかじめ他個体のコイ(Stimulator)白血球で免疫し,その後,両者の白血球を混合培養し,混合リンパ球反応(MLR)を行った.MLRにおいてResponderT細胞は,Stimulator白血球と混合した場合にのみ増殖したが,それ以外の個体の白血球と混合した場合は増殖しなった.また,このT細胞の増殖はシクロスポリンなどのIL-2産生を抑制する薬剤を加えることで抑制された.これらから哺乳類と同様,コイのTh細胞の増殖は,Th細胞自ら産生されるIL-2産生が重要であると考えられた.現在,これら培養下で増殖した抗原特異的なTh細胞の性状を調べるため,これら活性化Thに由来するクローン化Th株の培養に取り組んでいる. 上記のように,魚類においてもIL-2はT細胞の増殖に重要と考えられたため,大腸菌発現系を用いて,組換えコイIL-2タンパク質を作製した.そして,申請者がすでに樹立に成功しているコイTh細胞の培養に加え,その効果を調べた.その結果コイTh細胞は添加したIL-2濃度に依存して増殖したが,組換えコイIL-4/13などを加えた場合は,増殖しないことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究で,哺乳類と同様コイにおいても混交リンパ球反応(MLR)にて抗原特異的なT細胞の増殖がおこること,さらに,T細胞の増殖にはIL-2が重要であることがわかった.そこで平成29年度は,MLRで増殖した抗原特異的なコイT細胞を抗原(Stimulator白血球)や組換えコイIL-2在下で培養し,1個のTh細胞に由来するクローン化T細胞株の樹立を試みる.申請者はすでにクローン化Th細胞株の樹立法の確立や組換えコイIL-2の作製をすでに終えており,準備はできている.
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今後の研究の推進方策 |
平成28度の研究では,混合リンパ球反応(MLR)を用いることで,抗原特異的なコイT細胞の増殖に成功した.すなわちResponderのコイに別の個体の白血球(Stimulator)で免疫しておき,その後,これらResponderとStimulatorの白血球を混和・培養することで,抗原特異的なTh細胞の培養が可能であることを示した.また,コイにおいてもT細胞の増殖にはIL-2の関与が重要であることもしめした. 平成29年度はこのMLRで増殖した抗原特異的なコイT細胞を抗原(Stimulator白血球)や組換えコイIL-2在下で培養し,さらなるT細胞の増幅をみる.そして我々がすでに開発している方法でクローン化Th細胞株を作製する予定である.作製されたT細胞株は,各種T細胞レセプター定常部領域(TCRα,β,γ,δ),cd4やcd8,種々のサイトカイン(IFNγ,IFNγ-rel,IL-4/13A,IL-4/13B,IL-10など),転写因子(t-bet,GATA3)の発現の有無や発現量などを調べる予定である.さらに,T細胞レセプターの可変部の塩基配列を調べ真に1個のT細胞由来であるかを調べる必要がある. これらの解析により,従来作製が難しいかった活性化T細胞由来の細胞株であることが確認できれば,魚類においてもヘルパーT細胞亜集団の存在を調べることができると考えられる.
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