本研究は、環境直接支払におけるオークション制度およびボーナス制度が、農地の生態系保全および生産性に与える影響について、経済実験および計量経済モデルにより分析した。計量経済モデルでは、秋田県、福井県、滋賀県、島根県を対象とした大規模稲作アンケート調査を実施して、約500戸の農家より回答を得た。このデータを基に、仮想的な環境直接支払における規模ボーナス(取組面積の増加による交付単価の上乗せ)、新規ボーナス(新規取得農地に対する交付単価の上乗せ)、隣接ボーナス(取組圃場同士が隣接している場合の交付単価の上乗せ)に対する反応を検証した。その結果、回答農家は規模ボーナスおよび隣接ボーナスに有意に反応し、交付単価の上乗せによる参加面積の増加は、ボーナス制度の導入による費用増加を上回ることが示された。いずれのボーナスも保全型農業の連担化につながる制度であり、保全行為の集積を通じた生態系保全の改善と、保全コストの削減による生産性の改善が期待できる。
経済実験では、EU地域で近年注目される結果支払制度(生態系保全の効果が認められた農地に対してのみ、事後的に交付金を支払う制度)による環境直接支払の効率性を検証した。滋賀大学の学生を対象とした実験の結果、結果支払は参加面積では従来型の行為支払に及ばないものの、環境便益の水準は行為支払を上回ることが確認された。全体として、費用対効果の面で結果支払は行為支払よりも優れており、生態系保全において効率的な制度であることが示された。
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