近年,少子高齢化による人口減少や消費者ニーズの多様化などを背景に,従来のマスマーケティングに対し,消費者一人ひとりは異質だという認識の下で消費者の区分を細分化したマイクロマーケティングや個々の消費者に焦点を当てたワントゥワンマーケティングが注目されている. 最尤法などの頻度論的方法と異なり,階層ベイズモデルでは2つ以上のランダム効果を含む場合でも安定した推定を行うことができる.また1度しか観測されていない消費者,品目,店舗系列を含めて消費者別,品目別,店舗系列別にランダム効果の事後分布を推定できるので,消費者間,品目間,店舗系列間に存在する原因不明の異質性を考慮したモデリングが可能となる.階層ベイズモデルでは,ランダム効果のパラメータに階層事前分布と呼ばれる階層的な構造を与える.個々の消費者,品目,店舗系列に関するデータがどんなに少なくても消費者別,品目別,店舗系列別にランダム効果の事後分布を推定でき,データの少なさは単に事後分布の分散が大きいという不確実性として反映される.すなわち,階層ベイズモデルを用いることで,個々の消費者,個々の品目,個々の店舗系列に焦点を当てたマーケティングが可能となる. 本研究は消費者の異質性,品目の異質性,店舗系列の異質性という3つのランダム効果を含む階層ベイズモデルを用い,ビール系アルコール飲料需要に関する大標本のホームスキャンデータを推定した.消費者,品目,店舗系列のランダム効果を同時に推定したのは本研究が初めてであり,階層ベイズモデルを用いてビール系アルコール飲料の国内需要を分析したのも本研究が初めてである.また推定に用いる標本サイズにおいて,本研究は階層ベイズモデルを推定した既存研究を大きく超えている.マーケティングの実務面では,本研究のモデルにより消費者別,品目別,店舗系列別にビール系アルコール飲料の需要分析や予測を行えるようになる.
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