研究課題/領域番号 |
16K07899
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
山尾 政博 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70201829)
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研究分担者 |
山下 東子 大東文化大学, 経済学部, 教授 (50275822)
鳥居 享司 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (70399103)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 産地加工業 / 原料魚不足 / 定置網 / 乗組員不足 / 水揚変動 / 店頭価格定点調査 / 生アキサケ / 消費者の魚離れ |
研究実績の概要 |
本年度は次の4つの課題で調査を進めた。第1は、被災した宮城県のサケ漁業経営の動向について検討した。宮城県では漁協自営の大型定置網が少なく、共同漁業権にもとづく小型定置網が中心である。石巻市十三浜地区において、アキサケを主な漁獲対象魚種とした定置網漁業の経営実態を調査した。当地の小型定置漁業者は藻類養殖との兼業が多い。アキサケの漁獲量が1/4ほどに減少しているが、藻類養殖が順調なこともあって、経営的には震災前の水準に戻っていた。ただ、東日本大震災後は乗組員の確保が難しくなった。第2は、岩手県・宮城県のふ化放流事業の動向について調査した。宮城県では水系別協会がふ化放流事業の母体である。復興していないふ化場もあるが、将来的には6000万尾の放流尾数、4%の回帰率、240万尾の来遊尾数を目指している。一方、岩手県のふ化放流事業は震災前の水準に近い4億尾まで戻していた。ただ、水揚量の変動が激しく、漁業経営や産地加工業に与える影響が大きい。最近の水揚高は60億円程度だが、将来的には100億円規模の水揚を目標にしている。第3には、北海道のサケ・マス漁業の中心的な役割を果たす北見・根室管内のサケ産業の調査を開始し、両管内のさけ・ます増殖協会の活動成果を調査した。東北地方のふ化放流事業に比べて規模が格段に大きく、組織体制も充実している。しかし、来遊量は安定していない。第4には、消費市場調査のひとつとして店頭価格定点調査を東京都にて実施した。生秋鮭は2016年度より減産しているにもかかわらず価格は8月~10月¥259、11月~12月¥299と前年並みであった。 2017年度日本農業市場学会において代表者山尾が岩手県の水産業の復興をテーマにミニシンポジウムを開催し、連携研究者の天野通子らが研究成果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、岩手県のサケ産業の構造を明らかにする作業を続け、県行政やサケ・マス増殖に関わる組織にて聞き取り調査を実施した。本年度には、宮城県の沿岸定置網経営とふ化放流事業の調査を実施し、福島県の避難解除地域のサケ・マスの採捕場及びふ化放流施設を調査した。東北地方太平洋岸のサケ産業は北ではその規模は大きいが、南に下がるにつれて小さくなり、漁獲方法も大型定置網から共同漁業権にもとづく小型定置や漁船漁業になる。ふ化放流事業による稚魚生産量も小さくなる。地域経済のサケ・マス資源への依存度は岩手県が突出して高く、ふ化放流を起点としたサケのフードシステムが形成されていることが明らかになった。宮城県では地域によってはサケ産業の規模が縮小しており、ふ化放流事業を維持するのが難しくなっていた。 また、本年度は北海道の調査を本格的に開始し、サケ産業の拠点になっている北見管内、根室管内の調査を行った。ただ、両地域とも水揚高の落ち込みが大きく、当初予定していた定置網経営、水産加工業に関する調査は次年度に繰り越さざるを得なかった。北海道東部のサケ・マス資源の動向、二つの管内のさけ・ます増殖協会のふ化放流活動の成果に関する調査と分析を行った。また、サケ・マス輸出に関係した行政・市場関係者からの資料収集を行った。東京都における消費市場の動きを知るために、店頭価格定点調査を実施しているが、生秋鮭の価格は水揚げ量が減っているにも関わらず、上昇していないことが明らかになった。 本年度は、農業市場学会において研究代表者がミニシンポジウム「三陸被災地の水産業の構造変動を考える-主に岩手県を事例にー」を主催し、本研究課題の成果を盛り込んで座長解題を行った。また、連携協力者との共同でサケを扱う水産加工業の最近の動向について報告した。報告内容は2本の論文として2018年3月発刊の農業市場研究に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、東日本大震災で被災した三陸サケ産業の復興過程をフードシステム的な視点で分析し、それを踏まえて、北海道を含む日本のサケ産業全体が抱える構造問題を明らかにし、国際競争力を発揮できる産業として再生するための道筋を提示することである。次のような4つの課題を掲げている。課題1は、三陸サケ産業の復興過程の諸特徴をフードシステム的な視点から分析し、課題2は、日本のサケ産業の実態を、ふ化放流事業、漁業・養殖経営、加工・流通、消費の段階にわけて分析することである。これら二つの課題の進捗状況は順調だが、漁業生産について三陸の岩手県、北海道を中心に引き続き調査を進める。課題3は、サケ・マス製品の輸入増大により急激な変化を遂げている消費市場の動きを分析し、競争力のあるサケ産業をいかに育成するかを検討することである。2017年には水揚量が落ち込んで産地取引価格が上昇したが、イクラは別にして生アキサケの消費地市場での取引価格は顕著にはあがっていない。シロザケを中心とした日本のサケに対する消費需要の特徴を引き続き検討する。課題4の国際分業関係の深化の中に、日本のサケ産業を位置付けるという視点は、特に北見管内の網走市周辺に事例をしぼって検討を続ける。 最終年度を迎えて、日本のサケ産業の構造をフードシステム的な視点から明らかにすることに努め、産業の衰退性の諸要因を分析し、再生に向けた諸課題を検討する。なお、近年、サケ・マスの海洋へのふ化放流活動によって成り立つ産業特性は、生態系や海洋のキャパシティとどのように折り合いを付ければよいか、市場や消費の側から問われ始めている。これまでのサケ産業に対する社会経済研究の範囲を超えた課題に向き合う場面が増えている。本研究の終了後の研究のあり方についても検討してみたいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の調査経費については、現地調査及び資料収集等が順調に進んだ。ただ、調査対象地である北海道の水揚量が激減するという事態に遭遇したために、現地調査の課題を変えざるをえなかった。また、当初予定していた研究協力者への旅費支払が、別予算によって賄うことができたために、次年度への繰り越しを行うこととした。最終年度は予算計上額が少ないために、繰り越しによって余裕をもって計画を組むことができるようになった。 調査対象地は、北海道の北見・根室管内、岩手県南部沿岸地域を中心に計画し、さけ・ますふ化放流場、大型定置経営、漁協、加工場を中心に最終調査を実施する。原料魚として海外に輸出されるサケについては、輸出対応企業を中心に調査を行う。全体として、旅費としての支出が中心になる。
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