研究課題/領域番号 |
16K07902
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
山本 直之 宮崎大学, 農学部, 教授 (10363574)
|
研究分担者 |
宮田 剛志 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (70345180)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 畜産経営 / 農業・農村金融 / 成長過程 |
研究実績の概要 |
わが国の畜産経営において、口蹄疫などの家畜疾病から復興し長期的な事業拡大が求められるなか、畜産経営の成長に農業・農村金融がどのような役割を果たすべきか、学術的見地から考察することが本研究の目的である。特に、現在の事業規模に到達する過程で短期・長期のどのような資金用途を必要としてきたのか、このような資金需要に対して政府系、系統系、民間金融機関がどのような手法で資金供給を行ってきたのか、また、情報の金融理論やそれを踏まえた新しい手法がどの程度寄与していたのかについて分析を行う。 平成28年度は、大家畜経営と中小家畜経営のそれぞれにおいて、農業・農村金融の理論と手法の検証を行うとともに、現地実態調査を行った。同調査においては、種々の資料・データを入手し、具体的な分析を行っている。 大家畜経営に関しては、宮崎県における調査を進めており、口蹄疫発生から一定の復興を遂げた現在における資金需要の所在と調達方法、特徴等について分析を進めている。 養豚経営に関しては、近年、飼料穀物価格が高騰する一方で、豚肉価格も高位平準で推移している状況を踏まえ、特に大規模法人経営の収益性と借入金の状況を分析している。その結果、①2015年度までに、長期借入金の償還の進展、収益の確保、財務内容の改善されていること、②2006年-2008年の配合飼料価格の高騰時にも収益を確保していた大規模法人経営では、最近の高水準で推移する豚肉価格のもと、高い生産性に起因した収益=成長の源泉が確保されていること、③このような大規模法人経営では、衛生管理を徹底させ感染症リスクを軽減も図られていることが明らかになった。 以上を踏まえ、今後、現在の収益性と財務内容についての検証を引き続き行うとともに、新たに「新たな国際環境」の下での実現可能な事業活動の拡大の方向性の検証を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大家畜経営に関しては、九州地域、特に宮崎県における調査を進めている。ここでは、特に口蹄疫発生地域を中心に、口蹄疫発生当初から一定の復興を遂げた現在において、どのような部門にどのような資金需要があり、主としてどこから調達したか、また経営意向の違いにおいてどのような特徴がみられるか、実態調査をもとに情報、関連データを収集し、分析を進めている。 一方、養豚部門では、2006年-2008年の配合飼料価格の高騰時に、大規模家族経営や大規模法人経営においても損失を発生させている実態が指摘されてきた。その際、大規模法人経営では、配合飼料価格の高騰分を新たな借入金によって対応してきた実態も指摘された。2011年以降、再び飼料穀物価格が高騰する中で、豚肉価格は、2013年以降、高位の水準で推移することで交易条件は改善され、これらの経営では収益性が高まっていることも指摘されてきた。そこでは、長期借入金の償還も進展しており、また、他の費目等と合わせた新規の長期の借入金とし、償還期限や年利率の緩和も行われていた。この結果、2015年度までに、長期借入金の償還の進展、収益の確保、財務内容の改善が確認された。 何より、2006年-2008年の配合飼料価格の高騰時にも収益を確保していた大規模法人経営では、2013年以降の高水準で推移する豚肉価格のもと、高い生産性に起因した収益=成長の源泉が確保されている。その上で、借入金や制度資金、自己資本に依存しながら大規模農場が新設・改築されていた。このような大規模法人経営では、衛生管理を徹底させ感染症リスクを軽減させるため繁殖農場、離乳農場、肥育農場の3サイトに農場を分散させるシステムのための改築・新築を行っている実態も確認された。加えて、繁殖能力の高い純粋種も導入し、さらに高い生産性が実現されている実態も調査により確認された。
|
今後の研究の推進方策 |
2000年代に入り、情報の金融理論やそれを踏まえた新しい手法を用いた農業・農村金融が実施され、その取り組みの解明が求められている。そこで、平成29年度は前年度に引き続き、現地実態調査を踏まえながら、農業・農村金融に適用された情報の金融理論や新しい手法について整理を行う。研究代表者の山本が中心となり、研究分担者の宮田の協力を得ながら理論・実態両面から分析・整理を行う。 また、現在の収益性と財務内容についての検証も引き続き行うとともに、新たに「新たな国際環境」の下での実現可能な事業活動の拡大の方向性の検証を行う。すなわち、そこでは、『飼育成績表』、『事業報告並びに決算報告』、『決算書』、『短期・長期の月別・年別の借入金の返済計画・実績』等々の資料・データを入手し、次の5点から分析を進める。第1に、畜産経営の成長や安定性の実現を可能とした要因分析と、そこでの収益性や財務内容の分析である。第2に、収益の確保を源泉に、畜産経営が成長や安定性を実現する過程において短期・長期のどのような内容の資金用途を必要としていたのかの実態解明である。第3に、このような畜産経営の資金需要に対して、政府系、系統系、民間金融機関がどのような手法で資金供給を行ってきたのかの検証である。第4に、構造再編の最先端に位置づけられる現在の畜産経営の収益性や財務内容、短期・長期の月別・年別資金管理の実態についても整理を行う。第5に、今後、TPPを含め「新たな国際環境」の下で事業活動を長期的に拡大していかなければならない畜産経営の現在の収益性や財務内容を踏まえた上で、実現可能な事業活動の拡大の方向性について示唆を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、主として既往資料や諸情報・データの収集・整理を中心に研究を進めてきたこと、また、関連学会が宮崎であったため、その分、旅費の執行が少なくて済んだため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は28年度以上に現地調査を行い、関連情報・データ収集に努めるととに、研究者間の情報交換、関連研究会への参加をより積極的に行う。
|