研究課題/領域番号 |
16K07903
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
佐々木 貴文 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (00518954)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 東シナ海 / 尖閣諸島 / 尖閣漁業 / 底魚一本釣り / 中国漁船 / 台湾漁船 / 日中漁業協定 / 日台民間漁業取決め |
研究実績の概要 |
本研究の初年度は、学会発表を2回おこない、査読付き論文を2本まとめるなど、初年度としては一定の成果を残すことができた。まず関連歴史資料の調査・発掘では、終戦直後の尖閣諸島周辺海域での日本漁船の操業を跡付ける公的資料を複数発見したことが成果といえる。資材や燃油の不足する時期においても、日本漁船が尖閣諸島周辺海域を重要な漁場として利用していたことが証明できたことで、漁業における尖閣諸島の位置付けがより明確になった。これについては、すでに学会発表を経て地域漁業学会『地域漁業研究』(第57巻)に拙稿を投稿し受理されている。そしてこの調査結果の一部は、内閣官房の領土・主権対策室のホームページにも掲載された。 現状分析に関する調査では、日本漁船で尖閣諸島の領海内で操業している5隻の漁船すべての実態把握をおこない、彼らが中国公船の領海や接続水域への侵入の影響を受けつつも、19トン船の強みを活かし、資源動向に留意しながら操業を継続していることを明らかにした。この分析結果についても、学会発表を経て北海道大学大学院農学研究院『農経論叢』(第71巻)に拙稿を投稿し受理されている。 なお、以上の研究成果は、新聞でも取り上げられている。例えば、2016年8月6日付『南日本新』「九州の漁船 尖閣で操業」や2016年9月23日付『読売新聞』「戦後尖閣で漁 水産庁公式記録」、2016年9月26日付『産経新聞』「尖閣海域調査資料 鹿大で発見」、2016年10月28日付『日刊水産経済新聞』「尖閣諸島と漁業問題」などである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の初年度は、日本漁船の東シナ海における操業実態を明確にすることを目標としていた。研究の結果、東シナ海で問題が表面化している尖閣諸島の漁業については、終戦直後の混乱期における操業実態の詳細を明らかにする歴史資料の発見、ならびに現状の尖閣漁業の困難をより明確にすることができた点で、少なくない成果を残せたといえる。 また、「研究実績の概要」でも既述したように、こうした調査結果についてはすでに学会発表2回、査読付き論文2本として公表した。加えて研究成果がマスコミ等を通して公表されたことで、積極的な研究成果の社会への還元を進めることができた。『読売新聞』や『南日本新聞』といった一般紙の他、業界紙の『日本水産経済新聞』でも研究内容が記事になったため、広く漁業関係者にも情報を発信することが可能となった。 尖閣諸島の漁業以外についても、東シナ海の「日中漁業協定」で中国漁船の操業が可能となっている海域における、大中型まき網漁業や以西底びき網漁業を展開する中小漁業資本への調査も実施した。中国漁船が勢力を拡大するなかでの日本漁業への影響など、いくつかの調査結果を近日中に公表することができそうな状況にある。 以上のことから、本年度の進捗状況としては、「当初の計画以上に進んでいる」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性としては、これまでと同様に積極的な現地調査を実施しての実態把握としているけれども、調査対象地は、当初の研究計画の通り海外へと移ることが計画されている。しかしながら、南シナ海や東シナ海を巡る情勢が不安定ななか、現時点では、有意な海外調査が可能かどうか慎重に検討しなければならない状況にある。 有意な調査をおこなうべく、現在、様々なルートで調査先の選定・確保をおこなっている。具体的には、日本との関係が良好な台湾や、大陸に近い韓国での調査ができるよう、関係者との調整を進めている。 なお台湾漁船は、東シナ海では日本漁船と競合関係にあるものの、南シナ海ではフィリピン・ベトナムなどとの関係を悪化させ、また台湾海峡では中国漁船と競合する関係にある。台湾漁船は、漁業における漁場利用の問題をアジアという大きな範囲からとらえ直す際には注目すべき対象といえる。 また韓国の漁業は、日本と同様、勢力を急速に拡大してきた中国漁船との競合にさらされており、影響の程度・内容を把握することで、日本にとって参考となるデータが得られるものと考えられる。ただし、韓国の漁船は、日本海において日本漁船と競合関係にあることから、調査・分析ではその点を考慮した慎重な姿勢が求められる。
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