研究課題/領域番号 |
16K07903
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
佐々木 貴文 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (00518954)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 東シナ海 / 尖閣諸島 / 中国漁船 / 台湾漁船 / 日中漁業協定 / 日台民間漁業取決め / 漁船漁業 / 漁業経営 |
研究実績の概要 |
本研究の2年目は、主に中国の東シナ海漁場における操業実態に接近することを課題として各種調査を試みた。調査の背景には、2016年8月の尖閣諸島沖への中国漁船の大量展開を位置づけた。この事案は、日本政府・外務省が対応に苦慮し、マスコミを通じてセンセーショナルに報道されたことで、近年の中国脅威論の一端を形成することになった。しかしながら、中国漁船の大量展開に関して、中国の漁業実態を踏まえた検討や報道は皆無であった。 そこで本研究では、2017年6月に中国浙江省に赴き、「大量展開」の背景にある中国漁業の経営実態調査をおこなった。その結果、中国の漁業経営体内部での格差拡大、上層階層の不動産投機等での成功ならびに遠洋漁業志向の強まりがあり、他方で下層階層の資源問題に起因した経営難やそれへの対策としての中国政府による燃油補助・GPS貸与などがあり、こうした複合的要因によって当時の「大量展開」が為されたことがみえてきた。 また、台湾漁船の東シナ海での操業を後押しする台湾政府の政治姿勢にも接近するため、関係機関とのコミュニケーションを図り、台湾政府の海洋権益に対する姿勢の一端に接近することができた。 この中国・台湾の最新動向については、現在、書籍として出版するため、論考としてまとめる作業をおこなっている。同時に、歴史的な視点の資料蒐集も並行的に実施しており、尖閣諸島の領土編入以前における漁業開発について、学会報告ならびに論文投稿をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初、調査は容易ではないと考えられていた中国の漁村調査を実施することができたため、具体的な現地動向を豊富なデータとともに把握できた。また、台湾の関係当局とも積極的なコミュニケーションをとり、台湾側の東シナ海に対する関与のあり方に接近することができた。いずれも、貴重な調査結果であるといえ、現在、出版社と図書の刊行に向けた執筆等の作業をおこなっているところである。 また、本年度の研究成果についてもマスコミ等を通じて公表したため、十分な社会への還元ができたといえる。具体的には、『読売新聞』(2017年9月11日付)「尖閣 緊張の漁場」、『南日本新聞』(2017年9月12日付)「尖閣 遠のく漁師」、『南日本新聞』(2017年11月21日付)「緊迫の海」、「KTSみんなのニュース」(2017年11月22日放送)、『西日本新聞』(2018年2月13日付)「尖閣 緊迫の漁業動画」での公表であった。 以上のことから、本年度の進捗状況としては、「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性としては、従来の方法を踏襲して積極的な現地調査を実施しての実態把握としている。特に残された課題となっている台湾漁船の動向調査を最優先で進めるため、関係機関との調整を進めている。 台湾を重視するのは、一連の研究によって、尖閣問題を核とする東シナ海問題は、常設裁判所の判決などで注目を集める南シナ海問題と密接なかかわりがあることが明らかになってきたためである。 そこで最終年度の研究では、台湾漁船の南シナ海漁場での操業実態をとらえ、2つの問題の連関構造を解明しようと考えている。 これまでの本研究の成果からは、台湾では南シナ海漁場の利用が周辺国のナショナリズムの高まりで困難となっており、漁場の「玉突き現象」を誘発しつつ、尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海漁場への拘泥感を強めていることが明らかになっている。この論点をより強化するため、さらなる具体的な南シナ海での操業状況の把握を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の後半に、台湾での調査を実施する予定で、前倒し請求をおこなったものの、台湾側関係者の日程調整で問題が生じ、調査が未了に終わったため、次年度使用額が生じた。
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