本研究の最終年度となる平成30年度は、台湾基隆および東港での調査ならびに、鹿児島大学附属練習船での先島諸島周辺海域での洋上調査を実施した。この他、宮崎県や沖縄県などの近海マグロはえ縄漁業の有力地域や関係官庁でのヒアリング調査も実施した。 調査結果は、歴史分析と現状分析で個別にまとめる作業をおこない、前者は「領土編入以前におこなわれていた尖閣諸島の漁業開発」『地域漁業研究』(2019年6月刊行予定)として論文発表し、すでに掲載が決定している。同拙稿では、尖閣諸島が領土編入された1895(明治28)年の前後10年ほどに注目し、同諸島の漁業は領土編入以前から活発になされていたことを新発見の資料等を用いて明らかにした。後者は、刊行を予定(2019年度内)している『漁業と国境(仮)』で「東シナ海における覇権争い(仮)」としてまとめた。日本漁船が北緯27度以北で中国漁業勢力に圧倒され、また同以南で台湾漁船及び中国公船に圧迫されていることを、漁業者の視点から描きなおすものとなっている。 かかる分析・発表内容は、東シナ海における日本・中国・台湾の漁業勢力の今日的動向を把握し、漁場利用の実態を踏まえた漁業秩序の維持、および資源管理体制のあり方を模索することを目指した本研究にとって小さくない位置を占めており、中国が国力を拡大させる現今の東アジア情勢を漁業分野から考察する際の基礎的知見となるものと考える。この知見をもとに、日本漁業を持続的に存続させるための具体的方策を検討する作業がまたれている。 なお、以上の研究成果は社会還元もされており、例えば、2018年12月19日付『読売新聞』(全国版)「尖閣領海に台湾船急増」において、台湾漁船の動向分析コメントとして言及・掲載されている。
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