本研究の目的は、気候変動適応策としての高温耐性品種米による地域経済への影響について動学的応用一般均衡モデルを用いて評価することである。本年度は、農家の生産性分布に関する研究成果の公表とその影響要因として品種改良や普及等を担う公的研究開発に着目した追加分析を進めた。 公表した内容は、農林水産省『農業経営統計調査』の個票データを用いて、生産性の観点から農家の異質性と製品差別化について次の3点を明らかにしたものである。第1に、日本農業全体と水田作等の各営農類型での生産性は、ともに低い生産性の農家が多く存在し、高い生産性の農家が少数という冪分布と同一の形状を示すことが確認された。第2に、個人経営体や組織法人経営体の中には、生産性が顕著に高い生産者、いわゆる「スーパースター」が比較的多く存在した。第3に、営農類型別の分析では、水田作をはじめ果樹作や施設野菜作では、生産性の低い農家が相対的に多く存在する一方で、養豚、肥育牛、養鶏では生産性の高い農家が相対的に多く存在していた。また、前者では製品差別化の程度が低く、後者では総じて製品差別化の程度が大きいことがわかった。 このような結果を受けて、農家の生産性に影響する要因として、各生産者の属性や立地する農業集落の活動、および同一都道府県内の最近接する農業試験場の活動による影響について分析を行った。その結果、試験場の予算規模が大きく距離が近いほど生産性は高くなることがわかった。また、年齢等の農家の属性とともに、集落内の寄合の回数や地域の農産物市場といったその農家が属している集落の属性も、生産性に影響を与えていることがわかった。気候変動のなかで持続的な農業のためには、新しい品種や技術の導入を通じた個々の農家の生産性維持・向上が不可欠であり、それらを牽引する公的研究開発や地域内のコミュニケーション機会の重要性が示された。
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