本年度は、昨年度明らかとなったルワンダ政府が推進する避妊政策による、避妊注射やインプラント等のホルモン由来の避妊法の副作用による女性の農業や家事、子供の世話等への労働投入の減少と、その代替手段としての男性の労働投入の増大、完全に代替しきれない場合の農業生産量の減少や子どもの栄養状態への悪影響などについて、住民に対する聞き取りを中心とした詳細な調査を実施した。その過程で明らかになったこととして、夫婦の出生調節としての避妊動機は、1)リネージを中心とした伝統的家族制度が、1988年の近代西洋の価値観に基づく家族法の制定により「核家族化」が進んだこと、2)2005年の土地法の改正により所有権、相続権の明確化により家計の資源制約が強化されたこと、の影響を受けていることが明らかとなった。1)については、慣習法では「家族」の単位は、父系制に基づくリネージであり、複数の世帯が集合し、生計手段や土地等の資源の共有や子どもの扶養相互助が行われていた。核家族化は、家計あたりの子どもの扶養コスト負担の増大をまねいた。一方、2)の土地法の制定により、女性も含む家族内の所有権・相続権が明確化され、夫婦が子ども数を決定するに際して、子どもの将来の土地の相続といった将来の資源制約の期待形成も影響していることが示唆された。1)、2)から少ない子ども数を選ばざるを得ず、避妊、なかでもホルモン由来の避妊法を選択していた。副作用への解決策として男性用コンドームの利用が考えられるが、ルワンダでは、男性用コンドームは、性感染症対策として導入された経緯から、売春等性感染症の疑いがある場合のみ使用されるもの、いわばスティグマが形成されていた。
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