本研究では,農業普及体制が脆弱で、内戦の影響から農村における農民組織が機能していないカンボジアを対象として、農業技術が普及するための要素を明らかにすることを目的とする。普及活動が酒造農家の使用技術と経営状況に与えた影響を精査し、技術の採用・不採用や収入向上の成功・失敗の要因を明らかにする。さらに、研修受講者以外の酒造農家や新規参入農家の使用技術や経営状況と比較し、農村社会での技術情報の伝わり方やその採用・非採用の要因を明らかにし、技術普及による波及効果を検証する. 2016年度に①技術採用の実態と酒造経営状況を把握すべく、研修で紹介された推奨技術の使用頻度や作業時間、酒造に係るコストや販売収入について、質問票を用いたインタビュー調査を行った。2017年度はデータ入力・集計・分析を行い、技術採用が経営に及ぼす影響について、収益性とその要因分析を検証するための生産分析を行い、2017年度に国際開発学会で発表を行った。2018年度~2019年度は、②酒造経営に影響を及ぼすと想定される他の生業との関係について考察を行うため、酒造以外の農業・畜産業・加工業や、農業以外に携わっている職種からの所得に関して、質問票を用いたインタビュー調査を実施した。同時期に、研修を継続している地域で、③酒造やアルコール飲料の安全性に関する、知識・態度・実践(KAP)に関する項目について、研修参加者・非参加者に調査票を用いたインタビュー調査を実施した。2019年度は、それらの調査結果を集計・分析し、KAP調査の内容について国際学会での発表を行うとともに、②に関しても集計・分析を進めているところである。今後、上記で実施した①②③の調査結果を総合的に分析し、農業技術の採用や普及の要素を明らかにし、より効果的な技術開発や普及手法について検討する。
|