研究課題/領域番号 |
16K07923
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂本 清彦 京都大学, 農学研究科, 特定准教授 (30736666)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 福祉農業 / 農福連携 / アントレプレナーエコシステム / アントレプレナーシップ / イノベーション / 農業経営体の社会貢献事業 / 新自由主義 / Hybrid Assemblage |
研究実績の概要 |
平成29年度は、初年度の文献サーベイ等に基づく理論的枠組みを踏まえ、国内外の福祉農業・農福連携事業の現地調査を行った。 具体的には、平成29年6月に、オランダでワーヘニンゲン大学の研究者からの聞取りと農福連携事業の調査を行った。聞取りでは、1990年代から公的支援制度が確立され農福連携が普及していく過程と制度の現状について詳細な情報を得た。現地調査では、一定程度の農業生産も行う多面的機能志向事業から都市のコミュニティガーデンまで、障がい者に加え高齢者や薬物依存者も対象とするなど、多様な形態・目的を持つ福祉農業・農福連携の展開を把握できた。11月にはフランスにて就労を通じた障がい者等の支援組織(ESAT)を訪れ、ワイナリー、観光、漁業など多様な活動を展開する、まさに諸制度・技術の複合体(Hybrid Assemblage)という理論枠組みを体現する事業を調査した。平成30年3月には、米国の福祉農業事業体と、ケンタッキー大学食農環境学部における障がい者の農業就労支援プログラムに関する現地調査と聞取りを実施した。同事例は、行政と民間が連携して運営する家庭内暴力被害者の保護施設で、現金獲得や精神的ケアなど多面的な目的で農業を取り入れている。また同プログラムは、公的資金も使いつつ、障がい者の農業就労支援のため、作業用機械開発や安全作業の知識共有を図っている。 これら調査を通じ、日本に比して運営主体や事業の展開過程においてはるかに多様性に富み、これらを統一的に分析する理論的な枠組みを適用した理解の必要性が明確になった。これらの調査成果の公表は次年度以降に行っていく。他方、今年度の研究成果としては、前年度蓄積したHybrid Assemblageや新自由主義など関連理論を含む論文等を公表した。また、前年度同様、農林水産省近畿農政局とシンポジウムを共催し、関係者と意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度目指していた国内外における現地調査のうち、国外調査分についてはおおむね順調に進み、予期していたよりも多くの事例や制度についての知見を蓄積することができた。他方、国内での調査、特に聞き取りでは把握できない緻密な情報を得るための現場での参与観察等を含むフィールドワークが,事業者側等の制約により研究者とのスケジュールの調整が困難となり、実現できていない。 また、上述のように国外の事例について多くの知見を得たが、これらの成果公表はまだ十分でない。本研究の目指すところに沿えば、多様な展開を見せるそれらの事業の個別の事例紹介では不十分であり、国内外の事例の比較も交えながら、Hybrid Assemblageをはじめとする統合的な理論枠組みの中で捉えていく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、若干遅れている国内でのフィールドワークを集中的に行い、研究計画に沿って国内外の事例比較と理論的枠組みを適用した分析と、その結果を研究論文として公表していく予定である。 ただし、平成30年4月より所属校が変わり、研究環境に変化がある。特記すべきは、新所属校では、地域社会の課題解決に向けた連携が研究上、教育上の重要視されている。そのため、福祉農業・農福連携に取り組む地域の諸関係機関や関係者と接触し、研究及び教育における連携の可能性を探っていく。さらに、研究最終年次であることも踏まえ、諸事例の調査結果を統合的な理論的枠組みを適用して検証・分析するのみならず、地域の福祉農業・農福連携事業者・関係者の課題解決につながるような活動も、本研究課題の成果として生み出していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度(平成30年度)使用額が生じた理由は、初年度(平成28年度)に予定し実行できなかった国外調査費用がほぼそのまま残っていることによる。2年目(平成29年度)に複数の海外調査を実施したものの、前年度使用予定経費が執行しきれなかった。 平成30年度はこの残額を適切に執行し、調査支援者(調査への同行やテープ起こし)を積極的に活用して効果的・効率的に研究を進め、研究結果の公表に努めていきたい。
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