本研究は、近年国内でも認知度が向上し普及が進んでいる「農福連携」「福祉農業」「ソーシャルファーミング(SF)」の取り組みを国際比較論的アプローチから位置づけるものである。日本国内及びオランダ、フランス、スペイン、アメリカ合衆国(米国)の複数の事例調査を中心に研究を進めるとともに、各国の制度的、文化的背景などを検証した。これら検証を通じ、農福連携をイノベーションとしてとらえ、その展開を国際的に比較分析し、あわせて実践への還元を目指すことを目的とした。 日本では障がい者等の公的就労支援を基盤とする農福連携事業が2010年代以降広く認知されるようになったが、調査対象のオランダ、スペイン、フランスなどでは、同様の障がい者就労支援制度や高齢者の医療・介護保険的制度を基盤としたSFがより早い時期から展開されている。また米国では福祉農業を対象とする公的制度を背景・基盤とした展開は極めて限定されている一方、実践者による園芸療法の普及や、家庭内暴力被害者の保護施設での農業導入など各組織施設による独自・多様な取組みが見られる。農福連携事業を中心とした日本と比して、調査対象国の取り組みは制度面や福祉農業の展開の多様性を指摘できよう。またオランダのSFへの保険給付のように財政的裏付けのある制度導入は、日本でも検討されてよいと考えられる。 国内外の調査対象事例調査から、起業家的・イノベーション的な福祉農業は、高度化・複雑化する農業と福祉領域の特性及び関連諸制度(例:企業的農業経営の必要性や福祉事業の専門化)を巧みに組み合わせることで可能になる。こうした流れ場新自由主義が深化浸透する先進国の農業農村セクターで、農業と非農業部門の混合化・複合化(ハイブリッド化)が進展しているという近年の農業・農村社会学や人文地理学の研究動向と一致しており、今後こうした観点からの研究の進展が望まれる。
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